50代で「ついてこない部下」に悩むあなたへ|終活の視点で見直す、これからのキャリアとマネジメント

「何度同じことを説明しても、期待した通りに動いてくれない」
「熱意を持って伝えたつもりなのに、どこか冷めた目で見られている気がする」
「指示待ちばかりで、自分から一歩を踏み出そうとしない」

もし今、あなたが50代の管理職として、このような「ついてこない部下」の存在に日々頭を悩ませているとしたら、その徒労感はいかばかりでしょうか。心よりお察しいたします。

かつてのような「俺の背中を見て覚えろ」という指導は通用せず、かといって手取り足取り教えれば「マイクロマネジメントだ」と煙たがられる。ハラスメントという言葉が常に頭をよぎり、必要な注意すら喉元で飲み込んでしまうこともあるかもしれません。
そして、誰もいないオフィスでふと一人になった時、心の中に冷たい風が吹くのを感じるのです。

「私の言葉は、もう誰にも届かないのだろうか」
「私が長年かけて培ってきたやり方は、もう『時代遅れ』なのだろうか」

その苦しみの正体は、単なる「部下の育成スキル」の問題ではありません。
それは、「自分のキャリアはこのままで終わってしまうのか」「自分の存在価値はどこにあるのか」という、50代特有の孤独感と、自己価値への揺らぎそのものです。

私は30年以上にわたり、食品メーカーの人事部門や学校法人の現場で、多くの働く人々の葛藤に向き合ってきました。私自身もまた、キャリアの壁にぶつかり、自分の存在意義を見失いかけた経験を持つ一人の50代です。
今日は、「部下をどう動かすか」というテクニックの話ではありません。
「部下とのかかわり」を通して、「誰に何を残し、誰に何を託すか」という視点を踏まえた「終活」の考え方が、この苦しい状況を、あなた自身のキャリアにとって意義のあるものに変えるお話をさせていただきたいと思います。

「部下がついてこない」という悩みは、思いのほか、自分のメンタルにマイナスの影響を与えるものです。しかし、自分のこれまでの経験を整理し、本当に大切なものを次世代に手渡していく転換期だとしたら、捉え方が変わるのではないでしょうか。

1. 「ついてこない部下」の悩みは、何を揺さぶっているのか?

まず、あなたが今感じている「痛み」の正体を、見つめてみましょう。
50代の管理職の方々からご相談を受ける際、多くの方が口にされるのは、例えば次のような「現場の事実」です。

若手社員に仕事を任せようとすると、「それ、私の業務範囲ですか?」と真顔で返され、言葉に詰まってしまう。
良かれと思って自分の経験談を話しても、「今は時代が違いますから」と、やんわりと、しかし明確に拒絶される。「わかりました。」と返答するものの、提出されたアウトプットを見ると全くわかっていない。
結局、自分でやった方が早いと仕事を抱え込み、プレイングマネージャーとして疲弊していく。

これらは確かに、胃が痛くなるような現実です。

少しだけ捉え方を変えてみましょう。
あなたの心を本当に蝕んでいるのは、部下のそのような態度そのものでしょうか? 態度そのものという部分はあると思いますが、それだけではないはずです。
部下の冷ややかな反応や、思うように動かない現実を目の当たりにするたびに、あなたが無意識のうちに感じ取ってしまっていること。

それは、「自分が大切に扱われていない」と感じるからではないでしょうか。

あなたが20代、30代の頃は、理不尽なことにも歯を食いしばり、泥臭い仕事も厭わず、必死に成果を出してきたはずです。その積み重ねがあったからこそ、今の地位があり、会社への貢献もできたという自負がある。
しかし、目の前の部下たちは、あなたの「経験」や「仕事への向き合い方」に対して、なんら敬意を払っているようには感じられない。

「私が必死に守ってきたものは、間違っていたのか?」
「これから先の組織に、私の居場所はあるのだろうか?」

部下がついてこないことで感じるイライラや虚しさの深層には、このような「自分の積み重ねてきた歴史を否定された」ことへの「怒り」「不満」「自信喪失」といったネガティブな感情が隠れているのではないかと、私は考えます。

50代のビジネスパーソンは、役職定年や定年退職という「ビジネスパーソンとしての終わりの時間」を意識し始めます。それゆえに、このような感覚は、自身のアイデンティティを根底から揺るがす、非常に深刻な痛みとなります。

ですが、ここで冷静になることが大切です。

あなたのこれまで積み上げてきた歴史、経験には、必ず「価値」があるということに気づいていただきたいのです。

50代のビジネスパーソンは、自分ならではの「経験」を「価値」として捉え、自分のキャリアをより良いものにしていく時期であることを脳裏に刻み込んでいただきたいのです。

2. 50代は「積み上げる」から「整理し、意味づける」時期へ

これまでの自分の歴史(キャリア)を振り返ってみてください。

30代から40代にかけては、多くのビジネスパーソンにとって「積み上げ」のフェーズです。実績を上げ、成功や失敗の経験を数多く積み、知識とスキルを身につけることに懸命だったはずです。その結果として、会社での存在価値を高め、役職を任され、年収も高まっていった。自分のビジネスパーソンとしての幹を、より太くしていく時期としていたのではないでしょうか。
時代は令和。大きく環境は変わりました。当時のマネジメントでは、「背中で語る」「わからなければ、先達から技をまねて、学ぶ」という姿勢を持つ人がマネジメントを任されていました。そのため、それに継ぐ人は、同じような仕事のスタイルを踏襲していたものです。
しかし、時(とき)は流れました。それ相応に年齢を重ねたわけです。

50代のビジネスパーソンは、自分の意識を、これまでの経験をさらに高く積み上げることに加えて、「整理し、意味づける」こと、そして、「残し、託す」ことに比重を置くことが期待されているのです。

「自分がこれまでやってきたことには、どんな意味があったのか」
「この経験を、どう社会や次世代に活かしていくのか」

自分の中に蓄積された膨大な経験(成功も失敗も含めて)を棚卸しし、その価値を再定義する時期なのです。

ここで、あえて「終活」という言葉を使わせてください。
正確に言うと湘南キャリアデザイン研究所が独自に定義した「終活」です。

「えっ、まだ50代なのに終活?」「死ぬ準備なんて早すぎる」と思われるかもしれません。

湘南キャリアデザイン研究所が考える「終活」は、単なる死後の整理やエンディングノートの作成ではありません。
「終活」を、「ヒト」「モノ」「コト」「カネ」を通して、自分の価値観が反映されるものと定義しています。
これら4つの要素と向き合い、「誰に何を残し、誰に何を託すか」を問うプロセスとしています。このプロセスを通して、「自分の価値観」を確かめることができると考えているからです。

だからこそ、この「終活」は、50代のビジネスパーソンにとって、これからのキャリアをより良くするための最初の一歩と位置付けられるのです。

この考え方をもとに、部下の育成問題を捉え直すことができます。

「自分のやり方を押し付けるか/諦めて手放すか」という二者択一ではなく、
「自分の歩みをどう意味づけ、そのエッセンスを誰に、どのような形で託していくか」を考えるきっかけとして捉えられるのではないでしょうか。

3. 「仕事を振る(丸投げ)」のではなく、「判断基準(想い)を残し、託す」

私が「託す」という言葉を使うと、「結局、仕事を部下に振れということか?それができれば苦労しない」と思われる方がいらっしゃいます。しかし、私がお伝えした「託す」とは、「丸投げ」とは全く異なります。

「部下に任せられない」と嘆く管理職の多くは、実は「職務」の手順だけを渡そうとしています。「この書類を作っておいて」「あの会議に出ておいて」

50代のビジネスパーソンが残し、託すべきものは、職務の手順書には書かれていないこと。すなわち、自分の職務の背景に存在する価値観、「どのような考え(思い)で事案を判断してきたのか=判断基準」や「仕事を通して、何を実現したかったのか=自分の成し遂げたいこと」を残し、託すべきことであると、私は考えます。

「なぜ、あの時AではなくBという判断をしたのか」
「どんなトラブルが起きた時に、何を最優先にして動くのか」
「この仕事を通じて、誰にどんな喜びを届けたいと思っているのか」

こうした、「暗黙知」こそが、あなたが30年近くの年月をかけて積み上げてきた、あなたにしか備わっていない「経験価値」という財産です。

したがって、50代のビジネスパーソンが部下育成で大切にする視点は、自分の「経験価値」を部下に手渡していくことと捉え直すと見え方が変わってくるのではないでしょうか。

4. 部下への「イライラ」から、あなたの「譲れない価値観」を発見する

では、あなたが部下に託すべき「判断基準」や「価値観」とは、具体的に何なのでしょうか。
「自分の価値観なんて、パッとは出てこない」という方も多いでしょう。
そこで、あえて今のあなたの「不」の感情を利用して、それを見つける簡単なワークをご紹介します。

紙とペンを用意して、少し時間を取って考えてみてください。

  • 手順1:最近、部下のどんな行動に一番「イライラ」しましたか?
    (例:報告・連絡・相談がなく、事後報告でトラブルになった時)
  • 手順2:なぜ、その行動に腹が立ったのですか?
    (例:トラブルそのものよりも、隠そうとした姿勢が許せなかったから)
  • 手順3:その怒りの裏側にある、あなたが仕事で最も大切にしている「譲れない正義(価値観)」は何ですか?
    (例:私は仕事において、「信頼関係」と「誠実さ」を何よりも大切にしているからだ)

いかがでしょうか。

部下へのイライラは、実はあなたが大切にしている価値観、つまり、自分が大切に扱われず、踏みにじられた時に発生します。

このように捉え直すと、怒りの感情は、あなたの「原点」を探り当てるきっかけになります。「報告がない」ことに腹が立つのは、あなたが「チームワーク」を大切にしているからかもしれません。「手を抜いた資料」に腹が立つのは、あなたが「プロとしての品質」に誇りを持っているからかもしれません。
このように感じたことを頭の中だけでとどめずに、自分の言葉で言語化し、書き出してみる。

言語化してみると、「譲れない価値観」の中に、あなたがこれまでのキャリアで守り抜いてきたものが存在していることに気づくことでしょう。

5. 「価値観」を持ち続けるか否か、柔軟に取り扱う

ここで、もう一点、見逃してはいけないことがあります。
それは、自分の「譲れない価値観」を持ち続けることが、果たして自分にとって「居心地が良い」ものであるか、冷静に判断することです。それを頑なに持ち続けることが逆に自分を窮地に追いやってしまいます。

人は自分の価値観に従って生きたいと願います。しかし、社会や周囲の人は必ずしも同じ基準では動きません。それゆえ、執着しすぎると、そこから生じるギャップを「痛み」として感じてしまう可能性が高まってしまうのです。ストレスや自己否定につながるということです。
価値観を「自分らしさの目安」として持つと、幾分か楽になれます。「価値観」を確かめることは大切ですが、柔軟に取り扱い、自分を支える拠り所とすることも意識しておくとよいでしょう。

6. 自分の素直な思いを部下に伝える

自分が経験した失敗体験から学んだことを、部下が同じ轍を踏まないように、自分の思いを込めて伝えてみる。

自分の価値観を押し付けるのではなく、「私はこういう失敗をして、だからこそこの価値観を大事にするようになった」という思いを共有してみると、部下との接し方が捉え直されると思います。

人は、命令には反発しますが、「素直な思い」には耳を傾けます。

特に、上司の失敗談や、その裏にある人間臭い葛藤の話は、部下にとって「他山の石」となる貴重な教材であり、あなたへの親近感や信頼を生むきっかけにもなります。それを聞いて部下がどう動くかは、最終的には部下が選ぶことです。しかし、あなたが自分の素直な思いを語り、「残し、託す」ことができたのならば、結果として思いが伝わらなかったとしても、あなたの心の中には満たされた感情が芽生えるのではないでしょうか。そして不思議なことに、そうしてあなたが自分の言葉に誇りを持った時こそ、部下の心にも『言葉』が届き始めるものなのです。

なぜなら、それはあなた自身が自分のキャリアを肯定し、意味づける行為そのものだからです。

7. 終活とキャリアのリノベーションで、「部下問題」を人生後半戦のチャンスに変える

「ついてこない部下」に悩むことは、決して恥ずかしいことではありません。
大切なことは、この契機を生かして、あなたは自分の「原点」を再発見することです。50代のキャリアの「原点」と「底力」を見直し、「誰に何を残し、誰に何を託すか」を考え始めるきっかけになるからです。

まず、人生の終わりから逆算し、あなたが本当に大切にしたい価値観(=譲れない軸)を明確にします。これにより、あなたの価値観の原点を見つけられます。
つぎに、過去の経験を丁寧に紐解き、あなただけの強みや、暗黙知となっている判断基準を掘り起こします。あなたを突き動かす底力を見つけられます。
原点と底力を認識できれば、50代からのキャリアをより良くする設計図を描くことができます。つまり、発見した価値観と強みを活かし、「誰に何を託すか」「これからどう生きるか」という具体的なアクションプランを組み立てる準備が整うことになります。

もし、あなたが今、「部下との関係に行き詰まっている」と感じられたのならば、「誰に何を残し、誰に何を託すか」という視点で「終活」を捉え、「自分の歴史」を振り返り、自分が大切にしていきたい価値観、なるべくならば遠ざけたい価値観を、自分の言葉で言語化してみてください。

しかし、忙しい毎日を過ごしていらっしゃることと思いますので、部下と接するときに、次の一文だけでも、思い出していただくことをおすすめします。

「誰に何を残し、誰に何を託すか」

きっと、部下の方へ、自分の素直な思いを伝えたくなると思います。

湘南キャリアデザイン研究所

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