【解説】50代の「キャリアに行き詰まり」を解消する、たった2つの「時間」の使い方

「このままでいいのだろうか」

「会社での役割はもう終わったのかもしれない」
「何をしても、かつてのような手応えがない」

50代を迎え、ふと心が動かなくなる。
気持ちが重たいのは、「キャリアの行き詰まり」を感じて、あたかも立ち尽くしているような感覚だから。

その焦りや虚しさは、あなただけがそう感じているわけではありません。

それは、あなたが、ビジネスパーソンとして、真剣に仕事に向き合ってきたからこそ、目の前に立ちはだかる「壁」のようなもの。

50代にもなると、「学び直し」「セカンドキャリア」「リスキリング」といった、世間で声高に叫ばれる抽象的な言葉が耳障りに感じることがあるでしょう。

空虚な理想論はもう十分だ。
理屈はわかっていても、心が動かない。
今、手にしたいものは、霞を掴むようなスローガンではない。

今日よりも明日がよくなることを願いたい、という切実な思いではないでしょうか。

行動を変えるだけの、具体的で静かな納得であるはずです。

「理屈はわかるが、そんなことをじっくり考える時間がない」

もし、そう思われたなら、それこそが行き詰まりの核心かもしれません。

会議、メール処理、部下の指導、資料作成、そして親のケア…。

50代のビジネスパーソンの毎日は、「他人の予定」や「タスク」で埋め尽くされます。
それゆえ、「自分と向き合う時間」を確保することが、最も困難なタスクになっています。

行き詰まりを感じた時、多くの人は焦り、なんとか苦境を打開しようと、「打ち手」を探し求めがちです。

「どうすれば、いいのか。HOWを知りたい!!」と。

最新の転職市場の動向、流行りのスキル、AIの使い方。

50代のビジネスパーソンを取り巻く情報が、迷いにつながります。

ただ、覚えておいていただきたいことは、「打ち手に溺れない」ということ。

「どのように在りたいかという設計が曖昧なまま情報を浴びると、ますます動けなくなる」

これこそが、多くの50代が陥る「罠」なのです。

情報に飛びつく前に、まず、やるべきことがあります。

湘南キャリアデザイン研究所のブログで何度もお伝えしているように、大切なことは、50代からのキャリアを再設計するための「土台」を整えること。

そのためには、意識的に、「自分と向き合う時間」そのものを、主体的に確保することが必要です。

とは言え、「自分と向き合う時間」を創り出すことは容易ではないでしょう。

そこで、本日は、「自分と向き合う時間」に関して、「動」と「静」の2つの観点をもつことをご紹介します。

決して大掛かりな取り組みではなく、50代のビジネスパーソンが少しだけ工夫し、「小さな調整」を重ねて創り出した「自分と向き合う時間」を、よりよい「時間」にするためのヒントをお伝えします。

この記事を読み終える頃には、情報に振り回される焦りから解放され、ご自身の内側から静かなエネルギーが湧いてくる感覚を掴んでいただけるはずです。

なぜ50代は「キャリアの行き詰まり」という壁に直面するのか?

まず、なぜ私たち50代が、これほどまでに「行き詰まり」を感じやすいのか。その正体を客観的に知ることは、解決への第一歩となります。
この「行き詰まり」は、あなたの能力が低下したからでも、努力が足りないからでもありません。これは、長年走り続けてきたビジネスパーソンが直面する、構造的な「壁」なのです。
この壁の正体は、主に3つの「ズレ」から構成されています。

理由1:「他人軸のモノサシ」の限界

私たちは長きにわたり、「会社からの評価」「役職」「年収」「部下の数」といった、わかりやすい「モノサシ」を頼りにキャリアを築いてきました。これらは「他人軸」のモノサシとも言えます。

しかし50代を迎えると、役職定年、ポストオフ、年下の上司の登場など、この「他人軸のモノサシ」が、否応なく機能しなくなってきます。

これまで自分を測る基準としてきたモノサシを突然失い、「自分にはもう価値がないのではないか」と、測る基準そのものを見失ってしまう。これが、行き詰まりの第一の正体です。

理由2:「時間軸の焦り」

40代までは「まだ先がある」と思えていたキャリアも、50代になると「定年」というゴール(あるいは強制リセット)が、現実的な時間軸として見えてきます。

すると、「このまま終わりたくない」「何かを成し遂げなければ」という焦りが生まれる一方で、「今から何か新しいことを始めても、もう遅いのではないか」という諦めも同時に顔を出します。

未来への「焦り」と「諦め」。この相反する感情の板挟みになり、どちらにも踏み出せないまま、時間だけが過ぎていく。何もしなくても過ぎていく時間が、当たり前になる。「焦り」や「諦め」は感じたくないが、ともすると、「焦り」や「諦め」を感じることが「現状」になってしまう。「現状維持バイアス」を知らないうちに身につけてしまうことが、行動を停滞させる第二の要因です。

理由3:「自分軸」の不在

そして最も根深いのが、この「自分軸の不在」です。

これまでのキャリアを振り返ってみてください。
50代になるまでに、「会社のため」「家族のため」「部下のため」と、誰かの期待に応えることを優先し、自分を後回しにして走り続けてきました。その「役割」を果たすこと自体が、やりがいであり、自分の存在価値だったはずです。
しかし、「自分」以外に費やしてきたこと、たとえば、子どもが独立したり、親の介護が一段落したり、会社での役割も変化したりする中で、ふと立ち止まる時が訪れます。

「さて、自分は一体、何のために働いているんだっけ?」

これまで寄りかかってきた「役割」という支えが揺らぎ始めた時、自分自身の「軸」が定まっていなければ、どこに向かって歩けば良いのかわからなくなってしまいます。

「他人軸のモノサシ」が通用しなくなり、「時間軸の焦り」に追い立てられ、拠り所となるべき「自分軸」が見当たらない。
これこそが、50代のキャリアの行き詰まりの構造です。

行き詰まりを打破する、「自分時間」の作り方と2つの向き合い方

では、この構造的な壁をどう乗り越えればよいのでしょうか。
転職エージェントに登録することでも、流行りの資格を勉強することも一案ではあるでしょう。しかし、行き詰まりの正体が「自分軸の不在」であるならば、やるべきことはただ一つと私は考えます。

冒頭にお伝えした「自分と向き合う時間」を意図的に確保することです。

それでは、具体的な「時間の作り方(設計術)」と、すぐに実践できる「2つの向き合い方」をご紹介します。

【大前提】意志に頼るな、「設計」で時間を確保せよ

まず、大前提として、50代の多忙な私たちが「自分時間」を生み出すには、「意志」に頼ってはいけません。

「時間ができたら考えよう」
「今週末こそ、ゆっくり自分を見つめ直そう」
そう思っていても、その「時間」は、突発的なトラブルや家族の用事、あるいは目の前の疲労によって、永遠に来ることはありません。

必要なのは「意志」ではなく「5分でもよいので、自分のことを思う時間を設ける」ことです。

「自分と向き合う時間」は、「余った時間」でやることではなく、最優先で確保する。
あからじめ自分との「アポイントメント」をデフォルト設定してしまうことです。

  • 具体的なアクション:「自分とのアポイントメント」を「固定」する

やり方はシンプルです。
まずは、週に一度、短くてもでもよいので、「自分とのアポイントメント」として、カレンダーに「予定あり」としてデフォルト設定してみてください。

オンラインでも手書きでも構いません。

早朝の始業前かもしれませんし、水曜日の午後かもしれません。あるいは、土曜の朝、家族が起き出す前かもしれません。

場所も、オフィスの会議室を一つ押さえる、あるいは、いつものカフェの窓際席と決める。

なんでもよいのです。

大切なことは、「誰にも邪魔されない時間と場所」を、あらかじめ「設計」し「確保」することです。

「サボり」や「現実逃避」ではありません。

あなたのキャリアを再設計し、50代からのキャリアと人生を主体的に歩むために、最も重要な「戦略的な時間への投資」です。

「自分のことを俯瞰して見つめてみる。」
マインドセットを変えることが第一歩です。

【方法1:動】「自分と正直に向き合う」〜モヤモヤを書き出す〜

苦労して「自分時間」を確保した。この時間で何をすることが望ましいか。

まずご紹介したいのは、「動的」なアプローチです。

頭の中だけでグルグルと考えていても、思考は堂々巡りになりがちです。
大切なのは、その思考を「外に出す」こと。

つまり、自分の内心を「書き出す」ことです。
私は、手書きで「書き出す」ことを強くおすすめしています。

  • 具体的なアクション:電子的ではなく、紙とペンで「思い」を書き出す

「自分とのアポイントメント」の時間。自分と向き合える場所(自宅のリビングルーム、スタバやコメダのような喫茶店、会社の会議室でも構いません。)で、オンラインの世界から離れ、オフラインモードになる。A4の紙1枚とペンだけあればじゅうぶんです。

準備が整ったら、ただひたすら、「今、感じていること」を書き出してみましょう。

「何のために働くのか」といった高尚な問いから入る必要は、まったくありません。
むしろ、ご自身の内側にある「不」の感情や「どうなっていたいか」に、正直に耳を傾けてみてください。

• 「今、何にモヤモヤしているか?」
• 「何に焦りを感じているか?」
• 「本当は何に不満を感じているか?」
• 「あの上司の、あの言い方が許せない」
• 「会社に最後の貢献をするならば、どんなことができるか」
• 「最期をどうやって迎えたいか」
• 「会っておきたい人や話をしたい人は誰か」

他人に見せるための文章ではありません。
自分を包み隠さず、心の底にある淀んだ感情や言葉を、そのまま紙の上に「書き出す」のです。ただ一つ。文章にするときは、必ず動詞をいれてください。箇条書きでも構いませんが、体言止めにしてしまうと、後で見返したときに、何を意図していたか思い出せなくなる可能性があるからです。

これは、湘南キャリアデザイン研究所のメソッドの一つである「価値観発見のためのプロセス」の考え方にも通じます。

例えば、「正当に評価されない」という不満を書き出したとしたら、その裏には「自分は誠実に仕事がしたい」という強烈な価値観が隠れているかもしれません。
「会議ばかりで時間が取られる」という焦りを書き出したとしたら、「もっと本質的な仕事で貢献したい」という「自分軸」の萌芽が見えるかもしれません。
「書き出す」という「動的」な作業は、頭の中のモヤモヤを「可視化」する行為です。
可視化して初めて、私たちは自分の感情や思考を「客観的」に見つめることができます。
「ああ、自分はこんなにも『他人軸』に縛られていたんだな」
「自分が本当に大切にしたいのは、こういうことだったのかもしれない」
その「気づき」こそが、行き詰まりを打破する、次の一歩に繋がります。

【方法2:静】「自分と静かに向き合う」〜思考を一度リセットする〜

「書き出す」という動的なアプローチをご紹介しました。
しかし、人によっては、「書き出す」ことすら億劫なほど、情報過多で頭が疲弊しきっている場合もあるでしょう。
キャリアの行き詰まりは、思考の「不足」だけでなく、思考の「過多」によっても引き起こされます。
私たちは日々、膨大な情報ノイズにさらされ、脳も心も休まる暇がありません。
そんな時におすすめしたいのが、「静的」なアプローチです。

これは、湘南キャリアデザイン研究所の代表でもある私も長年実践している「座禅」に取り組んでみることです。

何も、お寺に通って厳しい修行をしろ、という話ではありません。

ご自宅の書斎でも、公園のベンチでも、あるいは確保した「自分時間」の最初の5分でも構いません。

  • 具体的なアクション:目を閉じ、呼吸だけに意識を集中し、「思考を眺める」

やり方は、驚くほどシンプルです。

1. アラームを5分(おすすめは15分)セットします。
2. 椅子に浅すぎず深すぎず腰掛け、背筋を軽く伸ばします。
3. 目は、閉じるか、あるいは半眼(1〜2メートル先の床をぼんやり見る)にします。
4. そして、ただ、ご自身の「呼吸」だけに意識を集中します。「息を吸っているな」「吐いているな」と。
5. 必ず、雑念が浮かんできます。「今日は何食べようか」「あの物言いは失礼だよな。許せない」「呼吸に集中なんかできないな」。
6. 雑念が浮かんだら、「あ、今、雑念が浮かんだな」とやりすごす。それを追いかけず、責めず、ただ「眺め」ます。そして、意識をそっと「呼吸」に戻します。

これを、アラームが鳴るまで続けてみる。ただ、それだけです。

「座禅」や「瞑想」とは、思考を「無」にすることではありません。
これは、思考の「ノイズ」と「自分自身」とを俯瞰することだと、私は感じています。

私たちは普段、頭に浮かんだ「思考」や「感情」を、そのまま「自分自身」だと同一視してしまっています。「会社で評価されない。自分はダメだ」という思考が浮かぶと、「自分はダメな人間だ」と信じ込んでしまうのです。

しかし、この静的なアプローチを続けると、思考は「自分」ではなく、空に浮かぶ「雲」のようなもので、ただ現れては消えていくだけの「現象」に過ぎない、という感覚がわかってきます。

それらを「ただ眺める」時間を持つことで、思考のノイズが静かに収まっていく。
そして、分厚い雲が晴れたあとに、青空が広がっているように、「家族への想い」や「誠実でありたい」「穏やかでいたい」といった、ご自身が本当に大切にしたい価値観が、心の底から静かに浮かび上がってくる。

この「静的」なアプローチは、情報過多の現代を生きる50代にとって、思考を一度リセットし、ご自身の「原点」に立ち返るための、強力な武器となります。

まとめ

50代のキャリアの行き詰まりは、能力の不足ではなく、「自分と向き合う時間」の設計がなされていないことから生じると、私は考えます。

情報という「外」に答えを求める前に、まずご自身の「内」に目を向けるための時間を確保することが、停滞を打破するすべての始まりです。
そのための具体的なステップは、以下の通りです。

1. 【時間の設計】:「意志」ではなく「設計」を信じる。
週に一度、短くてもよいので「自分とのアポイントメント」を、自分のカレンダーに「設定」する。

2. 時間を確保したら、つぎの2つの方法で、自分と向き合う。
「動(書き出す)」:PCを閉じ、紙とペンで、自分のモヤモヤや「不」の感情を包み隠さず書き出し、可視化・客観視する。
「静(座禅)」:目を閉じ、呼吸に集中し、浮かんでくる思考を「ただ眺める」ことで、思考のノイズをリセットし、自分軸を静かに見出す。

どちらの方法が優れているというものではありません。
とちらか一つを試すことでも構いません。

頭が整理されていないと感じる時は「動(書き出す)」を、情報過多で疲弊していると感じる時は「静(座禅)」を。ご自身のコンディションに合わせて、しっくりくる方から試してみてください。

大切なのは、歩幅を一定に保つこと。

大人の生活に馴染む、この「小さな調整」を続けることです。
自分のことは、自分では見えにくいものです。

しかし、勇気を持って立ち止まり、「自分時間」を設計し、ご自身の内側と対話を始めることこそが、行き詰まりという分厚い霧を晴らし、未来を照らす光を見つける、最も確実で、力強
い第一歩となります。

もし、その「自分時間」でご自身の内側と向き合う中で、
「人生の終わり(=終活)から逆算した、本当の自分の目的とは何だろう」
「自分の過去の経験(=自分の歴史)には、どんな価値が眠っているのだろう」
と、さらに深くご自身のキャリアをふりかえってみたくなったら、湘南キャリアデザイン研究所の「キャリア・リノベーション相談」のことを、思い出していただけたら嬉しく思います。
感想でも構いません。お話できること、楽しみにしています。

【ご参考】
神奈川県の北鎌倉、円覚寺の座禅会で私は座禅と出会いました。
私は毎朝午前6時から始まる暁天座禅会にたびたび参加させていただいています。
暁天座禅会は、毎月1日と15日を除いて、毎日開かれています。
境内の鳥のさえずりと風に揺られる木々の音、横須賀線の音。
約20分の座禅を2回と般若心経の読経。初めての方でも丁寧に解説してくれますから
ご興味あれば、是非一度訪ねてみられることをおすすめします。
詳細は以下をご覧ください。
https://www.engakuji.or.jp/zazen/

自分と向き合う時間を設け、座禅によって、自分の時間を設けている様子をイメージしています。
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