「このままでいいのか」と悩む50代へ──役職定年・転職の前に。「このままでいいのか」と感じた50代ビジネスパーソンが知っておきたい5つの視点

1. 「このままでいいのか」という問いは、“言葉にならない違和感”

ある朝、出社の足取りに、ほんのわずかな重さを感じる。
仕事は滞りなく回っている。人間関係も、ことさらに悪いわけではない。
けれど、心のどこかで微かなざわめきが続く。

「このままでいいのか」

50代を迎え、ふと立ち止まる瞬間に湧き上がる、その問い。
それは、目前に迫った「役職定年」がきっかけかもしれません。
あるいは、連日目にする「シニア層の転職」の二文字が、あなたの心を揺さぶっているのかもしれません。
しかし、この問いは、必ずしも「転職する・しない」「今の会社に残る・辞める」といった、白黒はっきりした二者択一だけを意味するものではありません。

むしろ、多くの50代のビジネスパーソンが抱えるのは、「張り合いが薄れた感じ」「このまま静かに“置いていかれる”のではないかという不安」「会社の肩書きがなくなった時、自分の先に何が残るのかわからない感覚」といった、“言葉にならない違和感”を意味するものでもあると、私は考えます。

友人に相談しても、「贅沢な悩みだ」「みんな同じだ」「決まりだからね」と返される。

思いが募り、自己啓発書や成功者の著書を読んでも、一向に先行きが見えてこない。
それらの書籍では、不遇の時代を乗り越えた先に明るい未来があると書かれている。

「それはわかる。」「でも、自分には当てはまらないように感じてしまう。」

そんな思いが頭の中を駆け巡り、かえって気持ちを重くする。

「理屈はわかる。でも、気持ちが動かず、どうすればいいのか」

この記事は、そんなあなたの“声なき声”に光を当てるためにあります。

その違和感の正体を見つめ、具体的な選択を焦る前に、あなたの人生の後半戦を動かす「最初の一歩」について、HRM(人事)の専門家として、そして同じ時代を歩む伴走者として、お話ししたいと思います。

2. 違和感の正体──“問題”の前に“感情”がある

50代からのキャリアに関する相談では、多くの方が「A社に転職すべきか、B社を選ぶべきか」「今の会社に残るべきか」といった「選択肢(=問題)」の比較から話し始められます。

道に迷っているとき、なんとかして、その迷いを断ち切りたくなるのは人の常です。
そして、なるべくならば、短い期間、極端な話、今すぐにでも解決の糸口を見いだしたくなるものなのです。

しかし、その選択肢を比較検討する前に、私たちが整えるべきものがあります。

それが、あなたの“感情”です。

「なぜ、自分はこんなに苛立っているのだろう」
「何に対して、こんなに焦りを感じているのか」
「この虚しさや、無力感はどこから来るのか」

このような状況のままでは、どの選択肢も適切であるか自信をもてなくなります。
無理に「A社」という選択をしても、「本当にこれで良かったのか」と迷いが生じ、揺れ、そして決断した自分に疲弊していく。

そう、50代の「このままでいいのか」という迷いは、「問題」の前に、まず「感情」があるのです。

「安定 vs 成長」という二者択一の呪縛

この「感情」をさらに厄介にしているのが、「今の会社に残る(=安定)」か「転職・独立する(=成長)」か、という二者択一のプレッシャーです。

「失敗したくない」という思いが強ければ強いほど、この二者択一の狭間で身動きが取れなくなり、焦りだけが募っていきます。

ここで、ある哲学者の言葉が深い示唆を与えてくれます。
彼は、「安定」と「成長」はどちらかを選ぶものではなく、「安定があるからこそ成長を目指したいと思い、成長したからこそ次の安定が得られる」のだと説きました。両者は対立するものではなく、螺旋階段のように絡み合いながら、私たちを前進させる力なのです。
ですから、あなたが今感じている違和感は、「すぐに転職すべき」というサインではありません。
それは、「安定か、成長か」という性急な“問題”設定をいったん脇に置き、「まず、あなたの“感情”そのものに、丁寧に向き合う時が来た」という、大切なサインなのです。

勢いで退職して後悔しないために!

言葉にならない悩みを放置すると起きること

この「言葉にならない違和感」を放置し、見ないふりを続けると、どうなるでしょうか。
その副作用は、静かに、しかし確実に進みます。

まず、小さな判断を先送りにするようになります。そして、先送りした自分に対して、小さな自己嫌悪が積もっていきます。

かつて私もこの先送りに苛まれましたが、このような状態に陥ることは理解できます。
「転職するか否か」「安定か、成長か」という二者択一に関して、今日こそは決断しようと心に決めて、通勤電車へ乗り込む。移動している間に思考を巡らせようとする。しかし、決断したいけれども決断したくないという思いのせいか、途中で思考をやめて電車の中で寝てしまう。降車する駅で、「結局、何も決断できなかった。」ことを実感する。先送りしたことで、「なんて決断力がないんだろうか。」という自己嫌悪に落ちいった経験があるからです。

次に、新しい提案や学びといった「小さな挑戦」を避けるようになります。そして、挑戦を避けた自分に、また失望します。

こうして、本来の実力とは関係なく、自分が自分に下す自己評価だけがじわじわと下がっていく。

そして最後には、「自分はもう変われない」「このまま定年までやり過ごすしかない」という、結論に辿り着いてしまうのです。このような結論を下すことを否定するものではありません。自分で納得して、後悔しないという感情が伴っているならば、それは適切な結論です。

しかし、そうでない場合、「先送り」と「挑戦の回避」から生じる自己評価の落ち込みが、負のスパイラルを生じさせます。

3. 50代がつまずきやすい“3つの見えないハードル”

「感情」を整えるためにも、まずはその感情を引き起こしている「焦り」や「迷い」の正体、つまり50代のビジネスパーソンが直面しがちな“見えないハードル”を客観的に知ることから始めましょう。

ハードル1:役職定年と「肩書きの空白」

多くの企業で導入されている役職定年。
昨日まで「部長」と呼ばれていた自分が、次の日から「さん」付けで呼ばれる。
会議での発言権が減り、任される仕事のスケールも小さくなる。
自分の部下だった社員たちから、軽く見られているように感じる。

頭ではそれは仕方の無いことと理解していても、感情が追いつかない。

役割が変わることで、昨日までの肩書きという「手応え」が急に薄れ、まるで自分の実力まで剥がれてしまったかのような「気」がしてしまう。

これが「肩書きの空白」による自信喪失です。

しかし、ここで自信を失うのはなぜでしょうか?

いつかはその職位から離れる時がくる。それなのに、どうして自信が揺らぐのでしょうか?

あなたの価値は、その肩書きだけで担保されてきたわけではないが、それが自分を支える太い柱だったからかもしれません。

それゆえに、新たに別の柱を組み込む必要があるのではないでしょうか?
新たな柱に必要なことは、「肩書きによって担保されていた価値(=役職手当や決裁権)」と、「あなた自身が経験を通じて生み出してきた、普遍的な価値(=知見、人脈、課題解決能力)」とを、意図的に切り分けて捉え直す自律的な活動です。

ハードル2:キャリアに関する情報の供給過多と“思考の麻痺”

「転職してみたけれども、話が違う。」

「とは言え、転職したばかりだから、どう動けばいいのか、わからなくなった。」

「このままでいいのか」という焦りから、スマートフォンの画面をスワイプし、転職情報やSNSを眺める時間が増えていませんか。

そこには、華々しくキャリアチェンジを遂げた同世代の姿や、「年収アップ」「やりがい」を謳う求人票が溢れています。
さらに、50代から起業することで、明るい未来を獲得できるという広告を目にする事も多々あるのではないでしょうか。

これらの情報は、自分にも可能性があると感じることにつながりますから、高揚感を覚えることもある一方、それらの情報を見れば見るほど、現実の自分がちっぽけに見え、「自分には何もない」という無力感に襲われる。

これが「情報の供給過多」が引き起こす“思考の麻痺”です。

情報が多すぎて処理しきれず、何が自分にとって有益であるかがわからなくなり、結果として思考が停止し動けなくなってしまうということです。

一度、意図的に「情報の供給過多を断ち切る」ことも一案です。
そして、あふれる情報や他人と比較する時間を、ご自身の「経験資産」を見直す時間に充てること。それこそが、あなただけの「思考の麻痺」を回避する手段であると私は考えます。

ハードル3:親の介護・健康・お金──静かに増える同時多発

50代は、仕事上の役割だけでなく、家庭やプライベートでの役割も大きく変化し、複線化する時期です。

親の介護が現実味を帯びてくる。
子どもが独立し、夫婦関係が新たなフェーズに入る。
自分自身の健康にも、これまでになかった不安な要素を感じ始める。
住宅ローンや老後の資金計画といった、退職後のお金の問題も重くのしかかる。

これら一つひとつは対処可能でも、複数の“見えない負荷”が「同時多発的」に発生することで、あなたの思考のキャパシティを圧迫し、冷静な意思決定を濁らせます。

ここで重要なキーワードは、「余裕」と「余白」です。

頭の中に「余裕」があれば、迷ったときに、「今は決めない」「分けて考える」と冷静な理性が働きます。「余白」があれば、ほんとうに大切なことは何かを、情熱をもって気づき、判断できる。

仕事も家庭も完全なる「正解」はありません。

考えるべきは、今のあなたの資源(時間、体力、お金)を適切に判断するために、頭の中に「余裕」と「余白」をつくることです。

そのためには、一度、思いつくままに、将来にむけて解決しておきたいこと(論点)をすべてを書き出してみる。
そのうえで、なにから解決していきたいか、優先順位をつける。

頭の中で思考を巡らせることを、頭の中から外に出す(書き出す)ことで、「余裕」と「余白」を創り出すのです。

4. 感情を整え、手応えを取り戻す「5つの視点」

さて、今、あなたは、どのハードルが目の間にありますか?
どのようなハードルであったとしても、それを乗り越えるためには、「感情を整え、手応えを取り戻す」ための具体的なステップを意識し、実践することをおすすめしています。

そこで、「このままでいいのか」という漠然とした問いを、具体的な「行動」に変えるための「5つの視点」をご紹介します。これは、私がHRMの専門家として、またキャリアのリノベーションを支援する中で確信している、極めて実践的な内省の技術です。

視点1:時間軸の再定義(「あと何年」から「5年で何を育てるか」へ)

「このままでいいのか」と考えるとき、私たちはつい「定年まであと何年働くか」という「引き算」で考えてしまいます。これでは、焦りや諦め、現状維持を感じてしまいがちです。

問うべきは、自分に残された時間を、いかに大切に取り扱うかという考え方の再定義です。

たとえば、「この先の5年間で、自分は何を育てるか」という「積み上げ」の問いです。

「育てる」対象は、実務スキルだけではありません。
むしろ50代にとって重要なのは、「評判」「信頼」といった、目に見えない資産です。これらは、肩書きがなくなった後も、あなたを助けてくれる「依頼される可能性」そのものなのです。

視点2:役割の棚卸し(「肩書きの外側」に光を当てる)

「肩書きの空白」に触れましたが、私たちは「会社の肩書き」以外の役割を、持っています。

「上司」としての役割。
「部下」としての役割。
「親」であり、「配偶者」であり、「子」である役割。
「地域コミュニティの一員」や「学生時代の先輩・後輩」という役割。
これらの「肩書きの外側」にある役割において、「あなたが他者から(無意識に)頼られている行為」はなんでしょうか?

「あの人に聞けば、昔の経緯を教えてくれる」
「Aさんがいると、会議がうまくまとまる」
「Bさんにだけは、この悩みを相談できる」

これらは、職務経歴書には書けない、しかし極めて価値の高いあなたの「無意識の強み」です。これを言語化できれば、失いかけた自信と手応えが、足元からじんわりと戻ってくるのを感じられるはずです。

視点3:経験価値の言語化(「事実」を「自分の言葉」で表現する)

「失敗したくない」という焦りから転職活動を始めると、職務経歴書の「事実」の羅列に愕然とします。「自分には大した実績がない」と。

それは、「事実」を「価値」に変換できていないからです。
今すぐ、あなたの経験を「その経験が意味することを自分の言葉」に表現してみてください。
それは、「何をやったか(事実)」ではなく、「その結果、なぜ、誰にとって、何がよくなったか(価値)」を文章として書き出すということです。

  • (事実)「部門の残業時間を20%削減した」
    →(なぜ)業務プロセスを徹底的に見直した結果、(誰にとって)若手社員が(何がよくなったか)定時で退社し、自己研鑽の時間を確保できる環境を作った
  • (事実)「クレーム対応のリーダーを務めた」
    →(なぜ)顧客の潜在ニーズを先回りしてヒアリングする体制を構築し、(誰にとって)営業部門が(何がよくなったか)自信を持って新商品を提案できる信頼関係を再構築した

どうでしょうか。あなたが積み重ねてきた「実績」という事実が、かけがえのない「価値」を含んでいることがわかるはずです。

視点4:依頼可能性の可視化(「弱い紐帯」を棚卸しする)

キャリア理論の権威であるクランボルツ博士が提唱する「計画的偶発性理論」では、キャリアの8割は予期せぬ偶然によって拓かれるとされています。

特に50代のキャリアを拓く「偶然(=機会)」は、いつも一緒にいる社内の人間(強い紐帯)からではなく、「久しく会っていない人(=弱い紐帯)」から届くことが圧倒的に多いのです。

学生時代の友人、かつての上司、昔の取引先…。
「最近、こんなことを考えていて」と、彼らに近況交換を持ちかけてみることも一案です。
想像だにしなかったフィードバックをもらえたり、その人の考え方に共感し行動を変えるきっかけとなったり、思わぬ偶然を引き寄せ、停滞した状況を動かす契機となる可能性があります。

視点5:小さな実験設計(「失敗しない」ために「小さく試す」)

「失敗したくない」という思いは、行動を麻痺させます。
その呪縛を解く唯一の方法は、「大きな失敗」を避けるために、「小さな実験」を繰り返すことです。
いきなり転職や起業という大きな選択をするのではありません。
「小さく」「短期間で」「反応を見る」実験を、試してみるということです。

  • 公的機関(「TOKYO創業ステーション」等)が主催するシニア層を対象とした起業に関するセミナーやワークショップに参加する
  • 「学んでみたいこと」に挑戦してみる
  • 過去の案件を振り返るブログ記事を書いてみる

「今さら学び直しをしても遅いのではないか」という不安も、この視点で解消できます。50代の学び直しで大切なのは、何を学ぶかよりも、「学んだことを、実務にどう接続して(小さな実験)、他者への価値として示せるか」ということです。

この「小さな実験」で得られた「反応(=手応え)」こそが、あなたの感情を整え、次のキャリアを描くための、設計図の一部となります。

5. まとめ──決める前に、整える

「このままでいいのか」という、あの重く、漠然としていた問い。

その正体は、あなたの「感情」と、それを取り巻く「ハードル」、そして手応えを取り戻すための「5つの視点」として、少し輪郭が見えてきたでしょうか。

転職か、残留か、独立か。

どの選択を選ぶにしても、「安定」か「成長」かという二者択一の迷路に陥る必要はありません。

50代の意思決定を本当に強く、後悔のないものにするのは、その選択そのものではなく、選択の前に、

  1. まず、自分の「感情を整える」こと。
  2. 次に、自分の「経験価値を言葉にし」
  3. そして、「小さな実験で手応えを見いだす」こと。

このプロセスです。

私自身のキャリアを振り返っても、不本意な異動を命じられ、「このままでいいのか」と深く悩み、自分の居場所を見失った時期がありました。しかし、その「悩み」と徹底的に向き合い、過去の経験(点)を意味づけし直す(線にする)ことでしか、進むべき道は見えてこなかったのです。

あなたの心に今灯った「このままでいいのか」という問いは、これから「変わりたい」というあなたの内心のサインです。

湘南キャリアデザイン研究所では、この一連の自律的な活動を、
「終活」と「自分の歴史を振り返る」というプロセスの掛け合わせた「50代からのキャリアのリノベーション」というプログラムをご提供しています。
「終活を通してキャリアの原点を発見する」「自分の歴史を振り返ることで、経験価値を最大化する」「終活と自分の歴史を統合することで、50代からの揺るぎないキャリアのリノベーションを完成させる」という3つのステップで構成されるプログラムです。
3つのステップはいずれも、「自分の言葉」で「50代からのキャリアを充実させる行動指針」を編み出す自律的な活動です。

キャリアの行き先を「決める」前に、キャリアのあり方を「整える」。

もし、その「整える」自律的な活動に興味をお持ちになったならば、是非、湘南キャリアデザイン研究所「キャリア・リノベーション相談」を60分、無料)ご活用ください。

あなたが思い描いていることの全体像を整理することにお役に立てると思います。

【ご参考】

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