「来年、役職定年を迎える…」
「給与も下がり、年下だった元部下の下で働くことになるかもしれない…」
「会社人生、こんな形で終わってしまうのか…」
もし、あなたが今、こんな言葉にできない虚しさや焦り、そしてプライドが静かに傷つくような感覚を抱えているとしたら、この記事はあなたのためのものです。
こんにちは。湘南キャリアデザイン研究所の扇慎哉です。私はこれまで30年以上にわたり、人事の専門家として多くのビジネスパーソンのキャリアと向き合ってきました。役職定年を前に、モチベーションを失いかけ、自分の価値を見失いそうになる方を、本当にたくさん見てきました。
そのお気持ち、痛いほどわかります。
しかし、今の会社で働き続けるならば、役職定年という組織の決まり事(規定)を、自分で変えることはできません。
その意味で、役職定年をあなたのキャリアの「終着点」ととらえることはおススメしません。むしろ、あなたが、これまでの会社人生で積み上げてきた実績、担ってきた役割や職責を振り返り、あなた本来の価値を再発見し、人生の後半戦を最も輝かせるための「最高の転機」にできるのです。
とは言え、「理屈はわかるが、気持ちがおさまらない。」とお感じになるでしょう。
この記事では、単なる精神論や気休めではない、役職定年という大きな壁を乗り越え、それを新たなキャリアの出発点に変えるための具体的な「心の持ち方」と「次の一手」について、私の経験と知見を総動員してお伝えします。
読み終える頃には、役職定年という言葉が、あなたの中で、意味合いが変わってくるはずです。
なぜ私たちは「役職定年」にこれほど心を揺さぶられるのか?
私の知人で、メガバンクで支店長まで経験した方が、役職定年を前に、私にこのように話をしてきました。
「扇さん、私は初めて『ポストオフ』という言葉を自分のこととして伝えれましたよ。『ポストオフ』という言葉、自分でも当たり前のように使ってきました。でも、自分のことになると夜も眠れなくなるくらいに、「ポストオフ」という言葉が頭の中を駆け巡り、悔しい思いでいっぱいになります。」
役職定年というキャリアの分岐点は、想像以上に大きなインパクトとして、受け止められます。
そこで、「そんなことはわかっている!」とお感じになるかもしれませんが、まず、あなたを苦しめている感情の正体から、冷静に見つめてみましょう。
役職定年がもたらす変化は、その後のキャリアに大きなインパクトを与えます。
- 経済的な不安:給与や賞与の減少。
- 役割の喪失感:これまで担ってきた責任や権限がなくなる。
- 人間関係の変化:元部下が上司になることへの抵抗感。
- 自尊心の低下:「お役御免」というレッテルを貼られたような感覚。
しかし、頭の中でモンモンと思いを巡らせるだけではなく、一度、文字として客観的に眺めてみましょう。
これらは、長年、会社のため貢献し、会社の一員として懸-命に走り続けてきた真面目なビジネスパーソンであればあるほど、深く心をえぐるものです。
客観的データが示す「役職定年」のリアル
この悩みは、決してあなた一人だけのものではありません。客観的なデータを見てみましょう。
たとえば、厚生労働省「生涯現役社会の実現に向けた調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社・令和5年度厚生労働省委託)によると、役職定年制がシニア社員のモチベーションダウンや流出につながり、その廃止を決めた事例を示しています。これは、役職定年制が少なからず、仕事への意欲や満足度の低下を経験していることと解釈できます。
(https://www.mhlw.go.jp/content/001252845.pdf:P7、図表6に記載)
一例ではありますが、あなたが感じている不安や喪失感が「個人的な弱さ」などではなく、現在の雇用システムの中で多くの50代が直面する「共通の課題」であるという事実であることを示していると、私は読み解きました。
したがって、不安感や喪失感は、「自分だけではないのだ」と冷静に受け止めることが大切です。もっとも、役職定年直後は、気持ちが収まらない期間が一定程度続くことでしょう。混乱期に、いろいろと考えることは必ずしも得策ではありません。
キャリアを長いスパンで捉え、自分の気持ちが落ち着きかけてきたとき、あるいは、もうこれ以上気持ちが収まらない時間を過ごしたくないと心の底から思ったときが来るまで、冷静に待つということです。
2. 人事のプロとして見た、役職定年後の「二つの道」
経験上、役職定年という、仕事におけるキャリアの転機を迎えた後に、大きく分けて二つの道に分かれると感じています。
【1】「過去」にしがみつき、ゆっくりと光を失っていく道
- 「昔は部長だったんだ」と過去の栄光を語り、変化を受け入れられない。
- 新しい役割や環境への不満を口にし、周囲の士気を下げてしまう。
- 定年までの日々を「消化試合」と捉え、ただ時間が過ぎるのを待つ。
【2】「今」を受け入れ、新たな輝きを放ち始める道
- 役職という肩書から解放され、一人のプロとして自分の専門力、再現力を磨き直す。
- 長年の経験を活かし、若手のメンターとして、あるいは部署の「ご意見番」として新たな信頼を築く。
- 社内だけでなく、社外にも目を向け、パラレルキャリアや地域貢献など、自分の力を試す新しい活動の場を見つける。
両者の違いは、能力や経歴の差ではありません。
両者の違いは、役職定年という出来事を、どう捉え直したか、という一点です。後者の道を歩んだ方々は皆、役職定年を「キャリアのリノベーション」のきっかけとして、主体的に活用していたのです。
私自身も、過去に不本意な異動を命じられ、キャリアの壁にぶつかった経験があります。自分が積み上げてきたものが一瞬で崩れ去るような無力感。その経験があるからこそ、キャリアの強制リセットがもたらす痛みがよくわかります。しかし、その葛藤の中から自身の価値観と向き合い、私が進むべき道を見つけ出した経験が、今の私の原点となっています。
だからこそ、自信を持って言えるのです。この転機を、あなたの人生をより豊かにするために活かすことができる、と。
3. 「役職定年」を最高の転機に変えるための5つの心の持ち方
では、具体的にどうすれば、この大きな変化を前向きに捉えることができるのでしょうか。ここでは、明日から実践できる5つの「心の持ち方」をご紹介します。
① 「終活」の視点を取り入れ、自分の価値観を再設定する
少しだけ、視点を遠くに置いてみましょう。もし、あなたが人生の最期を迎える時、誰に、何を伝え、何を残したいと思いますか?
私が提唱する「キャリアのリノベーション」の核は、この**「終活」から逆算してキャリアを考えるアプローチにあります。
「終活」と聞くと、身辺整理や遺言といった、死への準備をイメージするかもしれません。しかし、私、扇慎哉が提唱する「終活」は意味合いが異なる部分があります。
「誰に何を残し、誰に何を託すか」の視点で終活をとらえるということです。
この視点で「終活」を捉えると、「自分にとって本当に大切な価値観は何か」**が見えてきます。自分の歴史を振り返るプロセスにつながるのですが、人生の終わりから逆算するという意味において、究極の自己分析の出発点になります。
家族への想い、仕事で成し遂げたかったこと、引き継いでもらいたい自分の思い…。
「終活」から見えてきたその価値観こそが、これからのあなたの人生を導く、ブレない「指針」の土台となります。
役職や会社の評価といった相対的なものではなく、あなた自身の内側から湧き上がる絶対的な指針です。それが見つかった時、役職定年という出来事は、もはやあなたの心をかき乱す出来事ではなく、あなたの人生を切り拓く一つの契機になります。
② 「自分の歴史」を紡ぎ、「点と点」がつながる意味を知る
「自分の強みなんて、今さら…」と思うかもしれません。そんな方にこそ、単なるスキルの棚卸しではない、「自分の歴史」を丁寧に振り返ることをおすすめします。
「そんな自叙伝のようなこと、めんどくさい」と思われたことでしょう。
しかし、役職定年という大きな節目だからこそ、一度立ち止まって、「自分のための時間」をつくることが、とても大切なのです。
例えば、こんな問いをご自身に投げかけてみてください。
- 仕事で最も胸が熱くなった瞬間はいつでしたか?
- 最大の失敗から、あなたは何を学びましたか?
- 誰に、どんな言葉をかけられた時、自分の存在価値を感じましたか?
こうした問いを通じて過去の経験を深く掘り下げていくと、一見バラバラに見えた出来事(点)が、あなたの価値観という一本の線で繋がっていることに気づくはずです。
スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチと「計画的偶発性理論」
この考え方は、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が、2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチの核心部分と重なります。
彼は、大学を中退した後に興味本位で学んだカリグラフィーが、のちにMacintoshの美しいフォントを開発する上で、決定的に重要な役割を果たしたというエピソードを語り、こう述べました。
「未来に先回りして点と点をつなぐことはできない。君たちにできるのは、過去をふり返ってつなげることだけだ。だからこそ、バラバラの点であっても、将来それが何らかのかたちで必ず繋がっていくと信じ続けることだ。」
その時は何の役に立つかわからない経験でも、後から振り返った時に、今の自分を形作る重要な「点」であったことに気づく。まさに、50代のキャリアを振り返る私たちにとって、深く心に響く言葉ではないでしょうか。
そして、この「偶然の出来事がキャリアを豊かにする」という考え方は、現代のキャリア理論において「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」として確立されています。
これは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した理論で、**「個人のキャリアの8割は、予期しない偶発的な出来事によって決定される」**とし、その偶然をただ待つのではなく、自らの行動によって意図的に引き寄せ、キャリア形成の機会として最大限に活用することを推奨するものです。
計画的偶発性理論とは、キャリア形成における偶然性の役割に着目したキャリア論の一つです。「あらかじめ明確な目標を設定し、経験を積み重ねて実現する」というキャリアを計画的に積み上げていこうという理論に対し、計画的偶発性理論は明確な目標を定めず、一期一会の出来事、たまたま巡り合った出来事、受け止めがたい出来事等にも柔軟な対応し、自らが前向きに動くことで、より良いキャリアにつながるという理論です。
つまり、あなたのこれまでのキャリアにおける一見無関係に見えた異動や、予期せぬプロジェクト、あるいは苦い失敗経験さえも、未来のあなたに繋がる重要な「点」である可能性を秘めているのです。
「自分の歴史」を振り返ることは、それらの点と点を繋ぎ合わせ、あなただけの物語を再発見する、最もパワフルなアプローチなのです。
③ 「have/must」から「be/want」へ視点を移す
これまでの私たちは、「部長」「課長」といった役職(have)や、年収、部下の数といった「持っているもの」で自分の価値を測り-がちでした。しかし、それらは組織から与えられた、いわば「レンタル品」です。
そして、そのレンタル品には、「部長として、こうしなければならない」「課長として、こうすべきだ」といった、重い責任や役割期待(must)が常に付随していました。私たちは知らず知らずのうちに、その「have」と「must」の制約のもとで動いています。そして、組織の期待に応えることで自分の存在価値を確認してきたのかもしれません。
役職定年は、それらのレンタル品と制約条件を、一度組織に返却する機会です。
では、役職定年後、何者になるのでしょうか。ここで重要になるのが、**「be(組織の中で、どう在るか)」と「want(どうありたいか)」**という新しい視点です。
- 「be(どう在るか)」とは、役職という役割ではなく、あなたという人間がそこにいるだけで、周囲に与えることができる価値、すなわち「存在価値」のことです。
- 例えば、豊富な経験から若手の相談に乗る**「知恵袋」**のような存在。
- 部署間の対立を調整し、風通しを良くする**「潤滑油」**のような存在。
- 困難なプロジェクトで誰もが諦めかけた時、チームを励ます**「精神的支柱」**のような存在。
- 「want(どうありたいか)」とは、「〜すべき」という義務感からではなく、あなたの内側から湧き出てくる「〜したい」という主体的な貢献意欲のことです。
- 「自分の失敗談も交えながら、若手が挑戦しやすい雰囲気をつくってあげたい」
- 「これまで培ってきた人脈を活かして、新しいビジネスの種を部署に提供したい」
- 「もう一度プレイヤーとして、現場の最前線で顧客と向き合ってみたい」
これまであなたが培ってきた、誠実さ、粘り強さ、人をまとめる力、漠然とした指示を具体化させてきた経験…。それらは、役職がなくても決して失われません。
have(役職)やmust(義務)は、他者や組織から与えられるもの。しかし、be(存在価値)やwant(意志)は、あなた自身が過去の経験を意味づけし、主体的に「こう在ろう」と決めることで、自ら創り出していくことができるのです。
役職定年は、組織から与えられた役割を終える日ではありません。あなた自身が、組織における自らの「存在価値」を再定義し、本当に「やりたいこと」で貢献していく、新しい役割を始める絶好の機会なのです。
④ 「教える」から「時代をつなぐ人」へ役割を再定義する
役職者として「指示する」「評価する」という立場に慣れてきた私たちにとって、その役割を失うことは大きな戸惑いとなります。
しかし、視点を変えれば、新たな貢献の形が見えてきます。それは、**「伴走者(メンター)」として、あるいは「時代をつなぐ人」**としての役割です。
あなたの30年以上のビジネス経験、数々の成功体験や生々しい失敗談は、若手社員にとって何物にも代えがたい「生きた教科書」です。答えを教えるのではなく、彼らの悩みを聞き、そっと背中を押し、時には共に汗をかく。
そうした伴走者としての関わりは、相手を成長させるだけでなく、あなた自身に「必要とされている」という新たなやりがいと誇りをもたらしてくれるでしょう。
⑤ 人生の「ロスタイム」を「一番熱い時間」と捉え直す
私が敬愛するアーティスト、角松敏生さんの「ロスタイムが一番熱い時間」という言葉を、私は自分のモットーにしています。
角松さんは、「ロスタイムが一番熱い時間」の意味を次のように語っています。
サッカーのロスタイム(アディショナルタイム)こそに、生き方が現れる。勝っているときは勝利を確実にするために、引き分けているときは必死に勝ちをえるために、負けているときは一矢報いるために、最後の最後まで全力を尽くす。そこには、その人の生き様やあり方が凝縮されている、と。
私は、この考え方に大いに触発されました。
人生の後半戦も同じだと。
役職定年後のキャリアは、決してキャリアの「余生」などではない。
これまで培ってきた全てを懸けて、人生で最も濃密で、最も自分らしいプレーができる「一番熱い時間」なんだと。
そして、この「ロスタイム」をどう戦うか。
その采配は、他の誰でもない、自分自身が握っているということです。
4. 50代からのキャリアを輝かせる
ここまで、役職定年という転機を乗り越えるための5つの心の持ち方についてお伝えしてきました。
「理屈はわかったけれど、本当に自分も変われるのだろうか…」
そう感じられるかもしれません。しかし、あなたと同じようにキャリアの岐路に立ち、悩み、そして自分と向き合うことで「最高の転機」を掴んだ方々が、実際にいらっしゃいます。
ご自身の価値観を再発見し、未来を切り拓いた方々の声
ここで、私のプログラムを受けて、ご自身のキャリアをリノベーションされたお客様の事例を、ほんの一部ですがご紹介させてください。
- 「家族を支える」という価値観が、転職の迷いを誇りに変えた(40代・A様)
ご家族のため、地方企業への転職を決意したものの、「都落ちではないか」という葛藤に深く悩んでおられました。しかし、ご自身の歴史を丁寧に紐解く中で、彼が何よりも大切にしていたのは**「家族に寄り添い、支えたい」という揺ぎない価値観**でした。その価値観こそが意思決定の軸であると再確認できたことで、転職は「都落ち」ではなく、自らの価値観を実現するための誇りある一歩へと変わりました。 - 「自分を最大限活かせる環境」という価値観が、50代の転職の不安を希望に変えた(50代・A.K様)
職場の人間関係に悩み、50代で転職活動を始めたA.K様は、大きな不安を抱えていました。しかし、過去の成功体験や失敗体験を深く掘り下げることで、彼が本当に求めていたのは**「自分の専門性が尊重され、最大限に活かせる環境」という価値観であることが明確になりました。その価値観が、転職先を選ぶ上でのブレない指針となり、不安を乗り越えるための「お守り」のような安心感**へと繋がったのです。 - 「仕事の喜びの源泉」という価値観が、キャリアの迷いに終止符を打った(40代・T様)
2社から内定を得たものの、「転職か、残留か」という大きな迷いの中にいたT様。単なる条件比較では答えが出せずにいました。そこで、ご自身の仕事の歴史を振り返り、心が最も躍った瞬間に共通する「価値観の源泉」を特定。それが、複数の選択肢の中から未来の自分にとって最良の道を選ぶための、確固たる選択基準となりました。
ここに挙げた方々は、皆さんご自身の「自分の歴史」の中に、未来を照らす答え(自分の価値観)があることに気づかれました。 詳細は、ぜひウェブサイト「実績紹介」をご覧ください。
これまであなたは、会社のため、家族のため、多くの責任を背負って走り続けてきました。これからの時間は、あなた自身のために使っていいのです。
この記事でご紹介した5つの心の持ち方。これはと感じられたことがあれば、ぜひご自身のペースで試してみてください。
- 「終活」から逆算する:自分の価値観を振り返る土台を手に入れる。
- 「自分の歴史」を紡ぐ:経験してきたことを分析し、その価値をご自身の言葉で定義する。
- 「have/must」から「be/want」へ:ご自身の「存在価値」と「意志」に目を向ける。
- 「時代をつなぐ人」になる:新たな貢献の形を見つける。
- 「ロスタイム」を熱く生きる:人生の後半戦を主体的に楽しむ。
とはいえ、たった一人で進めるのは、簡単なことではないかもしれません。考えがまとまらなかったり、誰かとの対話を通じて考えを深めたいと感じたりすることもあるでしょう。
もし、ご自身のキャリアとじっくり向き合う中で、誰か「伴走者」が必要だと感じた時には、湘南キャリアデザイン研究所の存在を思い出していただけたら、嬉しく思います。
私は、人事のプロとして、そして同じ50代として、あなたの言葉に真摯に耳を傾け、対話を通じてご自身の答えを見つけるためのお手伝いをします。
まずは、「キャリア・リノベーション相談」という場で、あなたの今の率直な気持ちをお聞かせいただくことから始めてみませんか。漠然とした不安、誰にも言えない本音、どんなことでも構いません。
あなたの50代からのキャリアが、より豊かで、あなたらしいものになることを心から願っています。
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