組織の「空気」に息苦しさを感じていませんか？
長年、組織の一員として働いていると、否が応でも「組織風土」や「社内文化」、そして「同僚との人間関係」を意識せざるを得ません。
「この発言をしたら、どう思われるだろうか？」
「ここで異議を唱えたら、空気を読めない奴だと思われるのではないか？」
そんなふうに、無意識のうちに周囲の期待や視線を先回りして考え、本来の自分ではない「組織にとって都合の良い自分」を演じてしまう。真面目なビジネスパーソンほど、この傾向は強いものです。
仲間の目が気になるというプレッシャーは、時に強力な「同調圧力」となり、私たちの思考や行動を静かに、しかし確実に制御します。組織の中で自分の安全な立ち位置（ポジション）を維持するためには、同調圧力の源泉である「集団的権威」に従属するほうが楽だからです。
誤解しないでいただきたいのですが、他人からの評価を気にすることが「悪い」と言いたいわけではありません。組織で働く以上、周囲との協調は不可欠ですし、他者からのフィードバックは成長の糧にもなります。
私が人事の専門家として、そして同じ50代としてお伝えしたいのは、「他人からの評価を気にしすぎてしまうと、50代以降のキャリアはうまくいかなくなることが多い」という冷徹な事実です。
50代を襲う「ミドル・クライシス」の正体
実は、この「他人からの評価を気にしすぎてしまうこと」こそが、50代のビジネスパーソンが陥りがちな「ミドル・クライシス（中年の危機）」の深刻な原因になっています。
「自分ができること」と「組織が求めること」のズレ
振り返ってみてください。20代、30代、40代の頃はどうだったでしょうか。
多くの社会人は、ひたすら「自分ができること」「自分がやらなければならないこと」を拡張し続ける時期を過ごします。スキルを磨き、実績を作り、その広がりの分だけ組織から評価される。
これは、自分が組織に提供できる価値を大きくするためにも必要なプロセスですし、仕事に没頭している限り、自分の職業観と組織の方向性がマッチしているように感じられます。「評価されること」が「自分の成長」とイコールだった幸福な時代です。
しかし、50代ともなると景色が変わります。
自分目線で「自分ができること」「やりたいこと」に取り組む情熱とは裏腹に、組織目線では「管理職としての役割」や「後進の育成」、あるいは「役職定年による役割の縮小」など、今までとは異なる「やらなければならないこと」を求められる機会が増えてきます。
見えない「他人」からの評価
この時期、「他人からの評価」における「他人」の範囲も広がります。
かつては「上司、同僚、部下」といった顔の見える相手でした。しかし、50代になると、目には見えない「会社」という巨大なシステムとしての「他人」が、判断基準に入ってくるのです。
目に見えない「会社」という他人は、「処遇」や「人事異動」という形で、シビアな評価を自分に下します。
若い頃なら「他人から強制された義務」を果たすことに違和感を持たず、むしろそれを達成感に変えて行動できていた人でも、50代になると自分の内面にある価値観との間に、決定的な「ズレ」を感じ始めます。
「私の人生、本当にこれでいいのだろうか？」
「会社からの評価が、私の人生の価値そのものなのだろうか？」
この強烈な違和感こそが、ミドル・クライシスの正体なのです。
「偽りの自分」を脱ぎ捨てる勇気
人は一人では生きていけません。組織に属している以上、他人からの評価とは、否が応でも付き合わざるを得ません。完全に無視して独りよがりになるのは、ただの「逃げ」です。
だからこそ、50代においては「自分を知る」ということが、キャリア戦略上、極めて重要になります。
もしかすると、40年以上生きてきたあなたは、「他人から強制された義務を果たすために演じてきた自分」＝「偽りの自分」なのかもしれないからです。
- 上司の顔色を伺って決めた進路
- 「良い人」だと思われたくて引き受けた仕事
- 世間体を気にして選んだライフスタイル
これらが積み重なり、「偽りの自分」があたかも「本当の自分」であるかのように錯覚してしまっている。この状態を可視化せずに毎日を過ごしてしまうと、ミドル・クライシスの底なし沼から抜け出せなくなります。
50代のキャリアのリノベーション（再設計）を考えるとき、まず自分の中に「偽りの自分」がいることを認め、その上で「ほんとうの自分」を再確認することが、最初の一歩となります。
「ほんとうの自分」を取り戻すために
45歳からのキャリアを考えるとき、「他人からの評価を気にしすぎる」ことを完全に排除することは難しいかもしれません。長年染み付いた癖は、そう簡単には抜けません。
ただし、「他人からの評価」を、これからの人生を行動するための「主たる燃料」にすべきではありません。それは、ハイオクガソリンのように瞬発力はあるかもしれませんが、すぐに燃え尽きてしまい、あなたの心を焦がすだけの有害な燃料になりかねないからです。
では、どうすればよいのでしょうか。まずは、以下の問いかけを自分自身に行ってみてください。
- 「ほんとうの自分」が欲していることは何か？
- 「ほんとうの自分」が無意識に選択し続けていることは何か？
- 「ほんとうの自分」が、誰からも期待されなくても、ついやり続けていることは何か？
これらのことを、頭の中で考えるだけでなく、きちんと自分の言葉でノートに書き出し、可視化してください。そうすることで、霧の中に隠れていた「ほんとうの自分」の解像度が上がってきます。
評価軸を「自分」に取り戻す
「ほんとうの自分」が見えてくると、「他人からの評価」と「ほんとうの自分が自分に下す評価」との接点が見つかります。
もし、あなたが「他人からの評価」ばかりを気にしすぎていると、「自分が自分に下す評価」と接合する面積が存在しなくなります。これこそが、生きづらさの根本原因です。
逆に、「自分はこれを大切にしたい」という軸（アンカー）がしっかりしていれば、他人からどう思われようと、「私は私の人生を生きている」という静かな自信（自己効力感）を持つことができます。
「ほんとうの自分」の解像度を上げるためには、「自分を知る」こと、すなわち「社会人としての自分史」を振り返ることが、一見遠回りのようでいて、実は最短の近道なのです。
私が常々申し上げている「ロスタイムが一番熱い時間」という言葉。
人生の後半戦、ロスタイムを思い切り走り抜けるために必要なのは、観客席からの野次や評価ではなく、あなた自身の内側から湧き上がる「これをやり遂げたい」という熱い想いです。
他人の目ではなく、自分の心に従って生きる。
そんな50代のキャリアを、一緒に創り出していきませんか。
本日も、お読みいただきありがとうございました。