【50代からの終活】「何から始める?」は間違い。人生の後半が輝く「キャリアのリノベーション」実践ガイド

50歳を過ぎ、ふと「終活」が頭をよぎったあなたへ

50歳を過ぎ、親の介護、自身の健康、会社での立場の変化…。ふと立ち止まり、「終活、そろそろ考えないとな」と、ぼんやり感じていませんか?朝、満員電車に揺られながら、あるいは深夜、一人でグラスを傾けながら、「俺の人生、このままでいいのか?」という問いが、胸の奥でこだまする。

その感覚は、これまで懸命に走り続けてきたあなただからこそ抱く、非常に自然で、健全なものです。しかし、いざエンディングノートを前にしてもペンが進まない。財産リストを作ろうにも、どうも実感が湧かない。「終活」という言葉の重さに、心が押しつぶされそうになる。実は、多くの50代が同じ壁にぶつかっています。

それは当然のことなのです。
なぜなら、50代の終活は「死ぬ準備」ではありません。それは、**「これからを、もっと良く生きるための戦略的な準備」**だからです。

この記事では、単なる手続きで終わらない、あなたのキャリアと人生を、もう一度輝せるための「新しい終活」の始め方を、具体的なデータと、あなたの心を勇気づける偉大な先人たちの物語と共にご紹介します。読み終える頃には、あなたの「終活」に対するイメージは180度変わり、未来への期待に満ちているはずです。

50代のあなたに残された「本当の時間」とは?

「終活」を考える前に、まず、私たち50代に与えられた「時間」という、誰にとっても公平な現実を直視してみましょう。

厚生労働省の発表によれば、2022年の日本人の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳です[注1]。一方で、介護などを受けずに自立して生活できる期間を示す「健康寿命」は、男性72.68歳、女性75.38歳となっています[注2]。

この二つの数字の差、男性で約8.4年、女性で約11.7年は、誰かのサポートを必要とする可能性のある期間を意味します。

仮にあなたが55歳の男性だとします。
健康で、自分の意思で自由に活動できる時間は、健康寿命の72.68歳までと仮定すると、残り約17.7年。これを日数にすれば約6,460日です。多いと感じますか?それとも、少ないと感じますか?

さらに、ここから私たちの生活に不可欠な時間を差し引いてみましょう。1日のうち、睡眠時間に約8時間(1/3)、仕事や通勤に約8時間(1/3)を費やすと仮定します。すると、**あなたが本当に自分のために使える「自由な時間」は、残りの1/3、つまり約5.9年(約2,150日)**という計算になります。

2,150日。

この数字は、私たちを脅かすためのものではありません。これは、**「残された時間を、いかに価値あるものにするか」**という、私たちの人生の根幹に関わる問いを、真正面から突きつけてくる厳粛な事実なのです。

会社での立場がどう変わろうと、子供が巣立っていこうと、この時間だけは、誰にも奪われない、あなた自身のものです。この時間を、あなたはただ何となく過ごしますか?それとも、最高の密度で、誇りを持って生き抜きますか?

キャリアの転機が訪れ、そして「死」をリアルに意識し始める50代は、この「残された本当の時間」の使い方を真剣に設計するための、人生で最も重要で戦略的な最適期なのです。

その終活、間違っているかも?多くの50代が陥る3つの罠

しかし、せっかく終活を始めても、その方向性を間違えると、かえって心が重くなることがあります。多くの50代が陥りがちな「終活の罠」を3つご紹介します。

罠(1) 「手続き」で終わる罠

財産整理、相続対策、お墓の準備…。これらはもちろん重要です。しかし、これら「やるべきこと」をこなすだけの終活は、いわば「宿題」と同じです。ただの事務作業に追われ、自分の人生と向き合うという、最も本質的な作業が抜け落ちてしまいます。結果として、すべてが終わっても心には空虚感しか残らず、「これで良かったのか」という新たなモヤモヤが生まれるのです。

罠(2) 「ネガティブなもの」と捉える罠

「終活=死の準備」と考えると、どうしても気が進まないものです。「やった方がいいけれども、いまではない」と、無意識に先延ばしにしてしまう。この心理が、終活を「暗くて重いもの」にしてしまう最大の原因です。ネガティブな感情から始める行動は、決してポジティブな未来には繋がりません。

罠(3) 「誰かのため」だと思い込む罠

「残される家族に迷惑をかけないように」という優しい気持ちは、終活の素晴らしい動機の一つです。しかし、それだけでは「自分のための活動」になりません。主役であるはずのあなたの人生を、どう豊かに生き抜くか。その視点がなければ、終活の価値は半減してしまいます。あなたのいない未来のために、あなたのいる現在を犠牲にしてはいけません。

これらの罠に陥ると、終活は苦痛な義務となり、人生を豊かにする本来の目的を果たせません。では、どうすればいいのでしょうか。

「キャリアのリノベーション」という、新しい終活の正解

結論からお伝えします。50代が本当に取り組むべき終活とは、**「キャリアのリノベーション」**です。

「終活」を、「死」から逆算して「どう生きるか」を見つめ直す、最も強力な自己分析ツールとして再定義します。

その上で「キャリアのリノベーション」とは、
まず終活(ヒト・モノ・コト・カネの整理)を通じて、自分の「現在地=価値観」を明確にする。
そして、その価値観を羅針盤として過去(自分史)を旅し、未来のキャリアと人生を再構築(リノベーション)していく戦略的なプロセスのことです。

この考え方を裏付ける、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ博士が提唱した「計画的偶発性理論」というキャリア理論があります。これは、「個人のキャリアは予期せぬ偶然の出来事によってその8割が形成される」とし、その偶然をキャリアの機会に変えるためには、好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険心が不可欠だと説いています[注3]。

この5つの行動特性の根底にあるものこそ、**「自分自身の価値観や興味関心(=揺るぎない軸)」**なのです。自分の軸が分かっていれば、予期せぬ出来事(例えば、役職定年や不本意な異動)が起きても、それを「好機」と捉え、柔軟に乗りこなすことができます。

この「過去の経験が未来を創る」という考え方は、二人の偉大な人物のスピーチによって、より鮮やかに理解することができます。

一人目は、アップル創業者、故スティーブ・ジョブズです。彼は2005年、スタンフォード大学の卒業式で伝説的なスピーチを行いました。大学を中退した彼が、興味本位で受けたカリグラフィー(西洋書道)の授業。それは当時、何の役にも立たない「点」でした。しかし10年後、彼がMacintoshを設計した時、その「点」が繋がり、世界で初めて美しいフォントを持つコンピューターが生まれたのです。彼は語ります。「未来に先回りして点と点を繋げることなどできない。できるのは、過去を振り返って繋げることだけだ。だから、今やっていることが、いずれどこかで繋がると信じなくてはならない」と。

二人目は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥博士です。彼は2019年、近畿大学の卒業式で、自身の経験を語りました。もともと臨床医を目指したものの、手術が下手で「ジャマナカ」と呼ばれ、挫折を味わいます。その苦しい経験という「点」が、彼を研究者の道へと導き、後のiPS細胞発見という偉業に繋がったのです。彼は卒業生に「Vision and Work Hard」という言葉を贈りました。明確なビジョンを持ち、懸命に努力すれば、過去のどのような経験も、未来への意味ある布石となるのです。

ジョブズの寄り道も、山中博士の挫折も、その渦中にいる時は、決して輝かしいものではなかったはずです。しかし、彼らは自分の過去を意味づけし、未来へと繋げました。

あなたの自分史も同じです。成功も失敗も、喜びも悔しさも、すべてが未来のあなたを創るための、かけがえのない「点」なのです。「キャリアのリノベーション」とは、その点と点を、あなた自身の言葉で繋ぎ合わせ、未来への星座を描き出す作業に他なりません。

人生が変わる「キャリアのリノベーション」実践5ステップ

では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。いきなり過去を振り返ろうとしても、記憶の海は広すぎて、どこから手をつけていいか分からなくなってしまいます。

大切なのは、まず「現在地」を知ること。そこから、未来と過去へと視点を広げていくのです。紙とペンを用意して、以下の5つのステップに、騙されたと思って取り組んでみてください。

Step 1: 「終活」から始める(=現在地を知る)

湘南キャリアデザイン研究所が提唱する終活は、まず「いま」の自分を見つめることから始まります。以下の問いについて、思いつくままに書き出してみてください。

  • ヒト: あなたが大切に思う人に、物理的に残したいものは何ですか?そして、あなたの想いや哲学を託したい相手は誰で、何を伝えたいですか?
  • コト: あなたが経験してきたことで、誰かに伝えたい教訓や物語はありますか?(託す
  • モノ: あなたが所有しているモノで、誰かに受け継いでほしいものは何ですか?(残す
  • カネ: あなたが築いてきた資産を、誰のために、どのように使ってほしいですか?(残す/託す

ポイントは「残す」と「託す」を分けて考えることです。「残す」が物理的な承継であるのに対し、「託す」はあなたの魂や価値観の承継です。このリストは、あなたの「現在」における価値観そのものです。すぐに列挙できること、それが今のあなたが大切にしていることの証明なのです。

Step 2: 「価値観」の言語化(自分の軸を発見する)

Step1で書き出したリストを眺めながら、自分に問いかけてみてください。「なぜ、私はこれを残したい/託したいのだろう?」
その答えの奥に、あなたの揺るぎない「価値観」が隠されています。「家族への感謝」「次世代への貢献」「探求してきたことへの誇り」「美意識」…。しっくりくる言葉を5つほど言語化してみましょう。これがあなたの人生の羅針盤となる「軸」です。

Step 3: 「自分史」の作成(現在地から過去を旅する)

自分の「軸」が明確になった今、初めて私たちは、意味のある形で過去を振り返ることができます。Step2で見つけた価値観を胸に、あなたのビジネスパーソンとしての歴史を旅してみましょう。

  • あなたの価値観が満たされ、最も輝いていた成功体験は?
  • あなたの価値観が揺らぎ、悔しい思いをした失敗体験は?
  • その価値観が形成されるきっかけとなった、キャリアの転換点は?
    「現在地」という灯台の光があるからこそ、私たちは過去という広大な海で迷うことなく、ジョブズや山中博士のように、未来を照らす宝物(=点)を見つけ出すことができるのです。

Step 4: 「残すもの」と「手放すもの」の再仕分け

過去の旅を経て、あなたの価値観はさらに解像度を増したはずです。その研ぎ澄まされた価値観を軸に、もう一度、身の回りの「ヒト・コト・モノ・カネ」を見つめ直します。これからの人生で本当に大切にしたいもの(残すもの)と、実はもう必要なかったもの(手放すもの)が、より明確に見えてくるはずです。

Step 5: 未来のビジョンを描く(キャリアのリノベーション設計図)

最後に、「10年後、どんな働き方・生き方をしていたいか?」を自由に描いてみましょう。理想の1日の過ごし方、関わっている人、感じている感情などを、具体的に記述します。これが、あなたのこれからの人生を導く「設計図」になります。

あなたの人生のロスタイムは、一番熱い時間になる

50代からの終活、そしてキャリアのリノベーション。それは、決して「終わりへの準備」ではありません。むしろ、輝かしい人生の後半戦に向けた**「キックオフ」**です。

私がこの考え方の支えとしている、心から尊敬するアーティスト、角松敏生さんの言葉があります。彼は60歳の還暦を迎えた際、このように語りました。人生の後半戦は、スポーツにおける「ロスタイム」(アディショナルタイム)のようなものだと。

ロスタイム(アディショナルタイム)は、決して消化試合ではありません。
試合に勝っているチームは、最後まで油断せず勝ちをもぎ取りに行く。引き分けなら、最後のワンプレーで勝ち越しを狙う。たとえ負けていたとしても、一点を返すために、最後まで自分の力を出し切り、誇りを持ってピッチに立ち続ける。

ロスタイム(アディショナルタイム)こそ、その人の真価が問われる、一番熱い時間なのです。

私自身も、キャリアに行き詰まり、「このままでいいのか」と深く悩んだ一人です。しかし、自分自身の過去と徹底的に向き合い、経験を価値として捉え直すことで、進むべき道を見つけ出すことができました。
自分のことは、自分では見えにくいものです。しかし、正しいプロセスで現在地を知り、過去を紐解けば、必ず未来を照らす光は見つかります。

あなたの人生のロスタイムを、誰よりも熱く、誇り高いものにしませんか。


【脚注】

[注1] 厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」- 報道発表資料内の「1 主な年齢の平均余命」の「0歳」の数値が平均寿命に該当します。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html
[注2] 公益財団法人 生命保険文化センター「日本人の平均寿命はどれくらい?」- 厚生労働省のデータを基に、平均寿命と健康寿命が分かりやすく解説されています。
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1160.html
[注3] 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「資料シリーズ No.82 キャリアコンサルティングに関する研究会報告書」 P.180に理論の解説が記載されています。
https://www.jil.go.jp/institute/research/2011/documents/082_02-2.pdf



【追記】

この記事を読んで、少しでも心が動いたなら、あるいは「自分一人では難しそうだ」と感じたなら、それはあなたの人生が、より良い方向へ変わるための大切なサインかもしれません。

自分のキャリアや人生と本気で向き合う作業は、時に孤独で、困難を伴います。
客観的な視点を持つパートナーがいることで、あなた一人では気づけなかった「価値」を発見し、リノベーションのプロセスを加速させることができます。

もしあなたが本気で人生のリノベーションを望むなら、専門家である私と一緒に、その第一歩を踏み出してみませんか。
まずは、あなたが今感じている「モヤモヤ」を、個別相談でお聞かせください。
お会いできることを、心より楽しみにしております。

湘南キャリアデザイン研究所 代表 扇 慎哉

[→個別相談のお申し込みはこちら]

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