50代 計画的偶発性理論でキャリアを振り返る|世界的研究者・古沢明教授の事例に学ぶ

6年前の新聞記事からの再発見

6年前の新聞記事を、ふと読み返しました。
2019年7月15日付、日本経済新聞朝刊の15面。「先輩に聞く 道を切り開く」というコラム記事です。

掲載当時は、就職活動中の学生や、これから社会に出る若者に向けたエールとして書かれていたもので、とても読み心地の良い記事でした。

改めてこの記事を読み返したとき、私はあることに気が付きました。
「この記事に書かれている事例は、まさに『計画的偶発性理論』そのものではないか」と。

私たち50代のキャリア形成においても、非常に示唆に富む内容でしたので、今日はこの記事を通して、偶然を味方につけるキャリアの極意をお伝えしたいと思います。

世界的研究者・古沢教授の「修羅場」体験

記事の主人公は、東京大学の古沢明教授です。

古沢教授は、「量子テレポーテーション」の実験に成功した世界的な研究者です。現在は大学で教鞭をとられていますが、かつては大手企業に所属する研究員でした。その企業からアメリカのカリフォルニア工科大学に派遣されていた際のエピソードが、非常に興味深いのです。

「手がかりは論文一つ」という過酷な環境

記事の中で、古沢教授は当時の状況をこのように振り返っています。

  • 指導教授から難しい実験課題を任された
  • 手渡された資料は、量子テレポーテーションの新理論をまとめた論文だけ

企業から派遣されている身としては、「なんらかの成果をあげなければいけない」というプレッシャーは相当なものだったはずです。
成功する保証はなく、むしろ失敗する可能性の方が高い課題。手がかりはたった一つの論文のみ。成果を出せるかどうかは、すべて自分次第。

ある意味、ビジネスパーソンとしての「修羅場」であったと言えるでしょう。

異国の地で、たった一人で難題に向き合う孤独。普通なら心が折れてしまいそうな状況です。
しかし、古沢教授は「その過程に楽しさを感じ、苦労を感じたことはなかった」と語っています。

この姿勢こそが、キャリアを切り拓く鍵なのです。

古沢教授の研究活動と「5つの視点」

このブログでも度々お伝えしている「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」は、スタンフォード大学のクランボルツ博士によって提唱されました。個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定されるという理論です。

この理論では、偶発的な出来事をチャンスに変えるために、以下の5つの行動指針(スキル)が重要であるとされています。

  • 好奇心 (Curiosity)
  • 持続性 (Persistence)
  • 楽観性 (Optimism)
  • 柔軟性 (Flexibility)
  • 冒険心 (Risk Taking)

新聞記事を読んで、古沢教授が取り組まれた研究活動には、この5つの視点がすべて揃っていることに気づきました。

理論を実践で読み解く

古沢教授の行動を、計画的偶発性理論の5つの視点に当てはめて分析してみましょう。

  • 【好奇心】
    会社の将来につながる可能性があるテーマを、自らの研究課題として選んだこと。未知のものへの探求心。
  • 【持続性】
    時間をかけて、粘り強く、自分で納得のいく研究を続けたこと。どうすれば成功するかを考え続け、諦めなかったこと。
  • 【楽観性】
    「失敗の可能性が高いからこそ、自分が任されたんだ」と前向きに捉えたこと。悲観することなく、研究に没頭できたこと。
  • 【柔軟性】
    先行事例がない中で、固定観念にとらわれず、試行錯誤を繰り返しながらプロセスを構築したこと。
  • 【冒険心】
    成功の可能性を信じ、失敗するリスクを恐れずに研究に飛び込んだこと。

いかがでしょうか。まさに、偶然を必然に変え、キャリアを切り拓くための要素が凝縮されています。

キャリアの選択こそが「計画された偶発」

そして、この研究活動の経験は、古沢教授のその後のキャリア選択にも決定的な影響を与えました。

留学期間を終えたとき、古沢教授は派遣元の企業に戻らず、大学で研究者としての道を歩む選択をされました。その背景には、所属していた研究所が閉鎖されたという事情もあったようです。

おそらく、留学当初は「企業に戻って貢献する」というキャリアイメージを持たれていたと思います。しかし、取り巻く環境の変化(研究所の閉鎖)と、自身の研究活動での経験(5つの視点の実践)が、新しい道へと彼を導きました。

主体的に、自律的に、自分のキャリアを選択する。

「あらかじめ予定されていなかったようだけれども、それは計画されていたことである」

これこそが、計画的偶発性理論の本質だと私は感じます。

「任されてこそ人は輝く」

古沢教授の記事のサブタイトルは、「任されてこそ人は輝く」でした。
私はこの言葉に強く共感します。

仕事を任されるということは、自分で考え、行動し、結果を出す責任を負うということです。そのプロセスこそが人を成長させ、人材力を高めます。

自分のキャリアは、予期せぬ出来事や偶然の積み重ねによって築かれます。
しかし、ただ待っているだけではチャンスは掴めません。それぞれの出来事の中に、「5つの視点」を持って向き合うことで初めて、その出来事は豊かなキャリアへとつながっていくのです。

あなたのキャリアを振り返るヒント

ぜひ、あなたもご自身のキャリアを振り返ってみてください。
その際、以下の観点で記憶を辿ってみることをお勧めします。

  • 仕事を一から最後まで任された経験(修羅場体験)はありませんか?
  • 苦労の連続で、たとえ成功しなかったとしても、あきらめずにやり抜いた経験はありませんか?
  • その経験を通じて、「一皮むけた自分」を体感しませんでしたか?

その経験の中に、計画的偶発性理論の5つの視点(好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心)が含まれていませんか?

一人ひとりのキャリアの軌跡の中に、必ずそのような瞬間が見つかるはずです。
それを見つけることができれば、これから先の50代、60代のキャリアをようにつないでいけばいいのか、その方向性が見えてくるはずです。

自分のキャリアを振り返るにあたり、ぜひ「計画的偶発性理論」のことを思い出してみてください。
きっと、霧が晴れるように、先の見通しが見えてくると思います。

 

湘南キャリアデザイン研究所
https://shonan-career.jp/

最新情報をチェックしよう!