「もう会社辞めたい…」50代のあなたが勢いで後悔する前に。最初にやるべき3つのステップ

「もう、会社を辞めたい…」

毎朝、重たい体を引きずって満員電車に揺られながら、あるいは、リモートワークの画面に映る自分の疲れた顔を見ながら、ふと、そんな思いが胸をよぎる。

50代。

これまで真面目に、必死に会社のために働いてきた。家族のために、自分の役割を果たしてきた。しかし、ふと立ち止まった時、心にぽっかりと穴が空いたような、言葉にならない虚しさを感じる。

「このままで、自分の人生はいいのだろうか?」
「定年まで、この仕事をただやり過ごすだけなのか?」

その気持ち、痛いほどよくわかります。なぜなら、私自身がかつて、同じように深く悩み、キャリアに行き詰まりを感じた経験があるからです。人事という専門家でありながら、自分のキャリアを見失い、不意な異動や転職後の想定外の悩みに唇を噛んだ経験もしました。

だからこそ、あなたが今感じている「辞めたい」という気持ちは、決して逃げや甘えではなく、心の正直な葛藤のあらわれであると、私は受け止めます。あなたがこれまで仕事に真剣に向き合ってきたからこそ湧き上がる、「自分の人生を、もう一度自分の手に取り戻したい」という、あなた自身の内なるサインなのです。

しかし、その大切なサインを、一時の感情で無駄にしてはいけません。

こういう時こそ、古代ローマの賢者が大切にした「ゆっくり、いそげ(Festina Lente)」という言葉が道しるべとなります。

この言葉が示すのは、「本当に大切なことを成し遂げたいのなら、焦って闇雲に動くのではなく、まず腰を据えて本質的な準備に時間をかけなさい。それが結果的に、最も確実で最良の道となる」という知恵です。荒れ狂う海に、羅針盤も海図も持たずに小さな舟でいきなり漕ぎ出すのではなく、まずは港でじっくりと航路を見定め、舟を整備し、食料を積み込む。この「ゆっくり」とした準備期間こそが、安全で豊かな航海に不可欠なのです。

この記事では、あなたの切実な想いを「最高の再スタート」に変えるための3つのステップを具体的にお伝えします。

なぜ50代は「会社を辞めたい」と感じやすいのか

あなただけではありません。

多くの50代が、同じような壁に直面しています。その背景には、この年代特有の環境の変化が影響しています。

役割の変化と喪失感(役職定年): これまで組織を牽引してきた自負がある一方で、役職定年などにより、影響力が低下したり、若手の上司の下で働くことにプライドが傷ついたりする。

価値観の変化: 会社の評価や世間体よりも、「自分自身のやりがい」や「社会への貢献」といった、より本質的な価値観を重視するようになる。

体力の変化: 若い頃のように無理がきかなくなり、仕事のペースや内容を見直したいと感じ始める。

会社の将来への不安: 会社の業績や事業の方向性に疑問を感じ、このままでいいのかと不安になる。

プライベートの変化: 親の介護や子どもの独立など、家族の状況が変わり、働き方そのものを見直すきっかけが訪れる。

これらの変化は、あなたに「本当にこのままでいいのか?」と問いかけるきっかけになります。

そして、この問いから目を背けず、丁寧に向き合うことこそ、自分が納得してこの先を見極める第一歩につながります。

【ステップ1】「不」の感情をすべて書き出す ー 辞めたい本当の理由を知る

「辞めたい」という気持ちは、巨大な氷山の一角にすぎません。その水面下には、様々な「不」の感情(不満、不安、不信、不遇など)が隠されています。

まずやるべきことは、その感情を「見える化」することです。

ノートとペンを用意してください。

そして、誰にも見せる必要はないので、心の赴くままに、今のあなたの「不」をすべて書き出してみてください。その際、試していただきたいことは、「手書きで書く」ということ、そして、「動詞を含めた文章とすること」です。

「正当に評価されていない」という不満

「将来の収入が減るかもしれない」という不安

「上司のやり方についていけない」という不信

「若手ばかりが評価される」という不公平感

「毎日同じことの繰り返しでつまらない」という退屈

どんな些細なことでも構いません。ドロドロとした感情も、書き殴るように書き出してみましょう。

なぜ、この作業が重要なのでしょうか。

それは、漠然とした「辞めたい」という感情を冷静に見つめ直し、その根本原因を突き止めるための材料を可視化できるからです。

これは、ブレインダンプという学術的にも証明されている「思い」を発散した後に集約するという理論にもとづくものです。頭の中で複雑に絡み合っている事柄を、俯瞰し、整理するときに役立つ手法です。

【ブレインダンプとは?】

自身の思考を可視化して整理するための、極めて有効な手法です。頭の中にある懸念事項やアイデア、タスクなどを制限なく書き出すことで、思考の「棚卸し」を行います。これにより、一つひとつの課題を客観的に分析できるようになり、問題解決の糸口が見つかりやすくなります。モヤモヤとした悩みを具体的な言語にすることで、次にとるべき行動が明確になる、ビジネスパーソンにとって強力な武器となります。

さて、書き出したリストを眺めていると、気づくはずです。

「辞めたい」理由は、一つではないこと。

そして、それらの「不」の中に、あなたが「本当は何を大切にしたいのか」という価値観の源泉が隠されていることに。

例えば、「正当に評価されていない」という不満の裏には、「自分の経験やスキルを正しく認め、もっと貢献したい」という承認欲求や成長意欲があるのかもしれません。
「毎日がつまらない」という感情の裏には、「新しいことに挑戦し、知的好奇心を満たしたい」という欲求が隠れているのかもしれません。

この「不」の棚卸しこそが、あなたの価値観を発見する原点(入り口)となります。

「なんとかなる」という勢いで会社を飛び出しても、自分が抱える「不」の根本原因が分かっていなければ、次の職場でも同じ壁にぶつかってしまう可能性が高いのです。

【ステップ2】お金の「現実」を直視する ー 漠然とした不安を具体的な課題に変える

感情の整理ができたら、次に向き合うべきは「お金」という現実です。

これは、決して夢のない話ではありません。むしろ、50代からのキャリアをリノベーションするための、極めて大切なプロセスです。

多くの人が、お金に対して漠然とした不安を抱えたまま、「なんとかなるだろう」と思っています。現実を直視していないとも言えます。しかし、自律的なキャリアをリノベーションするためには、しっかりと見つめ直すことが大切です。

ここでは、社会保険労務士としての視点も踏まえ、最低限確認すべき項目を挙げます。

(1)退職した場合にもらえるお金(収入)を把握する

退職金: 就業規則を確認し、現時点での退職金額を会社に確認しましょう。

企業年金: 自分の会社に企業年金制度があるか、あるならいつからいくらもらえるのかを確認します。

公的年金: 「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、将来の年金見込額を必ず確認してください。

日本年金機構:「ねんきん定期便」の詳細を知ることができます。https://www.nenkin.go.jp/service/nenkinkiroku/torikumi/teikibin/20150331-05.html

雇用保険(失業手当): 自己都合退職の場合、給付までに待期期間があります。いつから、いくらを、どのくらいの期間もらえるのかをハローワークのサイトなどで確認しましょう。

ハローワークインターネットサービス:基本手当(いわゆる通常の失業給付)の受給にかかわる情報です。表現は堅めですが、公的な信頼できる情報です。https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html

(2)退職した場合にかかるお金(支出)を把握する

社会保険料: 在職中は会社と折半だった健康保険料や厚生年金保険料が、退職後は全額自己負担(国民健康保険、国民年金)になるか、会社の健康保険を任意継続する選択肢もあります。どちらが有利か、試算が必要です。

住民税: 住民税は前年の所得に対して課税されるため、退職した翌年に大きな負担となる場合があります。

この「お金の見える化」を行うことで、「辞めるなんて無理だ」という漠然とした不安が、「あと〇〇円あれば、〇年間は生活できる」という具体的な課題に変わります。

この現実的な土台があって初めて、あなたは冷静に次のキャリアを考えることができるのです。

この「お金の見える化」は、私たちが提唱する「終活」から始まる未来の切り拓き方の第一歩でもあります。ご興味があれば、ぜひこちらの記事もご覧ください

社会保険労務士からのワンポイント解説:退職と住民税

ビジネスパーソンの多くは住民税を給与から差し引かれています。住民税の特別徴収制度により、会社が本人に代わって住民税を市区町村に納付しているからです。

したがって、退職した時点で、本人が支払うべき住民税がある場合、最後に本人に支給される給与や退職金から差し引いて、会社が本人に代わって市区町村に納付する場合があります。(「一括徴収」制度)

これは、本人が自分で市区町村に納付する(普通納付制度)場合に、退職後に本人が住民税を納付し忘れることを回避するための制度です。退職月によっては、一括徴収される住民税額が高額になる可能性があります。

したがって、退職時には住民税が最後の給与または退職金からいくら差し引かれるか、しっかりと確認することが大切です。
これらの金額を具体的に把握すること、つまり、「辞めた後、最低でもどのくらいの生活費が必要で、収入はどのくらい見込めるのか」を冷静にシミュレーションすること。

「終活」から始まる未来の切り拓き方とは?

私の例をお伝えします。

私には、どうしても捨てられないものがあります。それは、実家じまいした際に持ち帰った、「リビングの飾り棚を支えていた一本の鉄製の柱」です。

他人にとってはただの鉄くずかもしれません。しかし、この柱は私の家族にとって特別な意味を持っています。なぜならこの柱は、かつて私が生まれる20年以上前に御影(兵庫県)の大空襲の戦火を生き抜いてきたものだからです。

私の祖父母と母が住んでいた家は空襲で焼失しましたが、この柱は瓦礫の中で奇跡的にその形をとどめていました。祖父は戦火をくぐり抜けたこの柱を大切に保管し、戦後に私の実家となる家を建てた際、家族が集うリビングの飾り棚の支柱として再生させたのです。

私はこの背景を、祖父が書き残したメモで知りました。そして、その思いに深く心を揺さぶられました。それ以来、この柱は私にとって「安寧の象徴」となり、決して手放せないものになりました。

では、なぜこれほどまでに私の心を捉えるのか。それは、この柱が私自身の「長く続けることに価値を見出す」という価値観を、静かに、しかし力強く体現しているからです。戦火という断絶を乗り越え、形を変えて役目を「続け」、世代を超えて「在り続ける」。その姿に、私が無意識に大切にしてきた生き方そのものが重なって見えたのです。

このように、自分にとって「絶対に捨てたくない何か」を深く掘り下げてみると、思いがけず自分自身の核心的な価値観と巡り合うことがあります。私の場合、一本の柱が、私にそのことを教える存在になったということです。

【ステップ3】「自分の歴史」を棚卸しする ー 過去の経験を未来の資産に変える

さて、ここまでで「感情」と「お金」の現在地を確認しました。最後にして、最も重要なステップが、あなたのキャリア(人生)そのものを棚卸しすることです。

ここからは、特に「ゆっくり、いそげ」の視点が重要になります。

ここで言う「棚卸し」とは、単に職務経歴書に書くようなスキルや実績をリストアップすることではありません。湘南キャリアデザイン研究所が最も大切にしている「自分の歴史」を振り返り、あなたの経験に価値を見出すプロセスです。

これは、未来の可能性につながる積み重ねてきた過去の経験そのものを、50代のあなたの最大の資産にするということでもあります。

自分には意図が理解できなかった異動や、失敗だと思っていたプロジェクト、泥臭い交渉や人間関係の軋轢。もちろん、仕事だけではありません。プライベートでも、数多くの喜怒哀楽があったことでしょう。それら一つひとつの経験が、今のあなたという人間を形作る、かけがえのない物語の断片です。それらの経験が持つ価値を、一つひとつ捉え直すことで、50代のあなたの資産を築くことにつながるのです。

この「自分の歴史」を振り返るにあたり、ぜひとも取り組んでいただきたいことは、以下の3つの視点です。

成功体験の再確認: あなたが仕事で「うまくいった」と感じた経験を思い出してください。どんな役割で、何を考え、どう行動し、どんな結果が出たのか。そこには、あなたの「強み」や「得意なこと」が必ず隠されています。

壁を乗り越えた経験の価値化: これまでで最も重要視してほしいのがこの部分です。あなたが直面した「壁」や「課題」を思い出してください。不意な異動、困難なプロジェクト、そりが合わなかった上司、対立した上司…。その時、あなたはどのように感じ、悩み、そして、その状況を乗り越えるためにどんな工夫をしましたか? 苦しんだ経験の中にこそ、あなただけの知恵と人間的な深み、そして再現性のある「本当の強み」が眠っています。

心が動いた瞬間の探求: 仕事に限らず、あなたが「面白い」「楽しい」「やりがいを感じる」と思った瞬間はどんな時でしたか? その感情の裏には、あなたの根源的な興味や関心、大切にしたい価値観が隠されています。

これらの経験を振り返り、自分の言葉で意味づけをしていく。このプロセスこそが、過去の経験を、未来を照らすための「資産」に変える「キャリアのリノベーション」なのです。

「自分には大した経歴、経験なんてない」と思うかもしれません。しかし、ほんとうにそうでしょうか?

50年を超える年月を、あなたは喜怒哀楽を交えつつも、前に進んでこられました。私は、生きてきた年数のどこかに、あなたが大切にしてきた価値観、なるべくならば遠ざけたい価値観が宿っていると確信しています。
実は、あなたのことは、あなた自身が一番見えていないものです。正しいプロセスで自分の歴史を紐解けば、そこには必ず、あなただけの価値ある物語が眠っています。

結論:「辞めたい」は、あなたの人生を動かす最高のサイン

「50代で会社を辞めたい」と感じた時に、最初にやるべき3つのこと。

  1. 感情をすべて書き出し、辞めたい本当の理由を知る
  2. お金の現実を直視し、漠然とした不安を具体的な課題に変える
  3. 「自分の歴史」を棚卸しし、過去の経験を未来の資産に変える

この3つのステップは、まさに「ゆっくり、いそげ」の実践です。

湘南キャリアデザイン研究所が提唱する「終活」も、この精神に深く繋がっています。人生の終わりから逆算して、本当に大切な価値観は何かを静かに見つめる。この「ゆっくり」とした内省の時間を持つことで初めて、50代からの人生をどう歩むかという「いそぐ」べき道が明確になるのです。

「辞めたい」という焦る気持ちのまま転職活動を始めるのは、「いそぐ」ことだけにとらわれ、最も大切な「ゆっくり」の部分をないがしろにしている状態かもしれません。

まずは、慌てず、焦らず、じっくりと自分と向き合ってみる。

そうすることで、あなたは「辞める」か「辞めない」かの二者択一ではない、もっと豊かで、あなたらしい第三、第四の選択肢の存在に気づくはずです。

もしかすると、今の会社に残ったままでも、仕事への向き合い方を変えることで、新たなやりがいを見つけられるかもしれません。あるいは、これまでの経験を活かし、全く新しい分野に挑戦する道が見えてくるかもしれません。

「辞めたい」という感情は、あなたの人生が停滞しているサインではありません。

あなたが自律的に、自分の人生を、自分の手で描き、整えることで、より豊かに生きるための、最高のターニングポイントであるというサインなのです。

もし、この自分と向き合うことを一人で進める中で、客観的な視点や対話の相手、いわば「伴走者」が必要だと感じた時には、湘南キャリアデザイン研究所の存在を思い出していただけたら、嬉しく思います。

私は、30年以上にわたる人事のプロとして、そして同じようにキャリアに悩み抜いた50代の一人として、あなたの言葉に真摯に耳を傾け、対話を通じてご自身の答えを見つけるためのお手伝いをします。

まずは、「キャリア・リノベーション相談」という場で、あなたの今の率直な気持ちをお聞かせいただくことから始めてみませんか。

漠然とした不安、誰にも言えない本音、どんなことでも構いません。ご自分の思いを、誰かに話すことで、自分の思いが整理できることもありますから。

あなたの50代からの人生が、より豊かで、あなたらしいものになることを心から願っています。

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