「変わらなければ」の焦り。踏み出せない自分を責めていませんか?
50代という節目を迎え、ふと立ち止まる瞬間が増えていないでしょうか。
「このままでいいのだろうか」「会社人生の残り時間が見えてきた今、本当にやりたかったことは何だろうか」
世に目を向ければ、「人生100年時代」「50代からのリスキリング」「セカンドキャリアの準備」といった言葉が飛び交っています。
「何か新しいことに踏み出Sなければ、時代に取り残されるのではないか」「同僚は新しい挑戦を始めているのに、自分は……」
そんな焦りやプレッシャーを感じる方も少なくないでしょう。
しかし、その一方で。「理屈はわかる。頭では『動いた方がいい』とわかっているんだ」「でも、なぜか変わりたくない自分がいる。どうしても最初の一歩が踏み出せない……」
そして、そんな「踏み出せない自分」に対して、「自分は意気地がない」「結局、変わるのが怖いだけじゃないか」と、ご自分を卑下してしまってはいないでしょうか。
このような心の動きを日々感じているならば、その葛藤に思い悩む時間がもったいない。その時間を少しでも削るべきと私は考えます。
それゆえに、もし、あなたが今、そのような葛藤の真っただ中にいるのだとしたら、まずは、そのご自身を責める手を、一旦止めていただきたいのです。
問題提起:「新しいキャリアに踏み出す」ことが、本当に必要なのか?
私たちは、無意識のうちに「変化すること=是」「停滞すること=否」という二元論に捉われがちです。
ビジネスの世界では「挑戦」や「成長」が常に正しいこととされ、現状維持は「逃げ」や「停滞」と同義のように語られることさえあります。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
50代まで、真剣に仕事に向き合い、時には理不尽なことに耐え、家族を支え、責任を果たし、懸命に歩んできた「今」という時間。その積み重ねてきたすべてを、無理に否定してまで「新しい何かに踏み出す」ことだけが、唯一の正解なのでしょうか。
この記事ではお伝えしたいことは、「給与が下がった」「役職定年になった」「理不尽な出向を命じられた」といった、会社や組織から強制された処遇の結果としての目に見える『不』への対処法ではありません。
お伝えしたいことは、ご自身の心の内側から静かに湧き上がってくる、次のような「満たされない気持ち」への対処法です。
- 周囲からは順調に見えているかもしれないが、自分自身では「こんなんじゃなかった」という思いが拭えない。
- 今の仕事に大きな不満があるわけではない。しかし、かつてのような情熱も感じられない。「なんとなく自分の生きざまを認められない」という、言葉にしにくいモヤモヤがある。
- 会社での役割や居場所はまだ残っている。それでも、ふとした瞬間に「自分はこのままで、本当に満足できるキャリアを終えられるのだろうか」と自問してしまう。
これらはあくまでも一連です。共通していることは、ご自身の価値観が「何か違う」と静かに発しているサインです。そして、ご自身との対話の中でのみ見つかる、極めて内省的な葛藤とも言えるのです。
そして、この「満たされない気持ち」から目をそらさず、「踏み出せない」と、このことで思い悩み、時間を浪費してしまわないことが、あなたの人生にとって、次なる大切なステップの始まりなのです。
不安の正体:あなたが苦しんでいるのは「内なる自己否定」
では、なぜ私たちは「踏み出せない」と、あれほどまでに苦しく感じてしまうのでしょうか。
その「不安の正体」とは、一体何なのでしょうか。
変化に対する恐れ? 将来への経済的な不安? もちろん、それらもあるでしょう。ですが、30年超にわたる人事(HRM)の専門家として、また50代の当事者として多くのビジネスパーソンと対話してきた私は、その不安の最も根深く、厄介な正体は、別のところにあると感じています。
それは、「内なる自己否定」です。
もっと具体的に言えば、「変わるべきだ」という理想(あるいは思い込み)と、「変われない」という現実とのギャップに直面したとき、「変われない自分はダメだ」と、ご自身でご自身に「NO」を突きつけてしまう、その“内なるコンフリクト(葛藤)”こそが、不安の最大の正体ではないでしょうか。
- 「踏み出せない」という事実(現象)
- 「踏み出せない自分は、価値がない」という解釈(自己否定)
あなたが本当に苦しんでいるのは、前者の「事実」そのものよりも、後者の「解釈」によって、ご自身がご自身の存在価値を傷つけてしまっていることにあるのかもしれません。
もし「踏み出せない」こと自体を、ご自身が「今はそういう時期だ」と心から受け入れられていたとしたら、そこまで苦しい不安は感じないはずなのです。
ですから、不安と向き合うための第一歩は、無理に「踏み出す方法」を探すことではありません。まずは、そのご自身に向かって放たれている「自己否定の矢印」を、ここで一旦、止めることです。
提言①:「不」ではなく「満」を見る。「親の視点」で自分を認める
「ないもの」ばかり見ていませんか?
私たちは、自分の「ないもの(=不)」に目を向けることには驚くほど長けています。「あのスキルがない」「この経験が足りない」「情熱が持てない」「一歩が踏み出せない」。
しかし、その一方で、ご自身の「あるもの(=満)」に目を向けることを、すっかり忘れてはいないでしょうか。
「踏み出せない」と悩むその瞬間も、あなたは、
- 毎日、満員電車に揺られて会社に通っているかもしれません。
- 気が乗らない会議でも、責任者として発言しているかもしれません。
- 家に帰れば、家族の愚痴を聞いたり、親の介護の心配をしたりしているかもしれません。
「踏み出せない」という一点を除けば、今日も一日、家族のために、暮らしのために、社会的な責任を果たすために、懸命に働いてきたご自身の姿が、そこにあるはずです。
それらはすべて、あなたがこれまで積み上げてきた「満」であり、紛れもない事実です。なぜ、その「満」の部分を、私たちは正当に評価してあげないのでしょうか。
「親の視点」で、自分自身を眺めてみる
ここで、私から一つの具体的な提言があります。それは、「あたかも、自分が自分の“親”になったかのように」、今のそのご自身の姿を、少し離れたところから温かく眺めてみることです。
もし、あなたが「親」だったとして。自分の子ども(=あなた自身)が、50数年間、社会の荒波に揉まれ、悩み、葛藤しながらも、今日までなんとか家族を支え、懸命に生きている姿を見たとしたら。
「何をグズグズしているんだ!さっさと新しいキャリアに踏み出せ!」と、叱咤激励するでしょうか。
おそらく、違うのではないでしょうか。
「そうか、そんなことで悩んでいるのか」「偉いじゃないか、毎日毎日、家族のために」「踏み出せないくらい、慎重に考えているんだな。お前らしいよ」「がんばってきたな。本当に、よくやっているよ」
そこには、「ダメな自分」などどこにもいません。ただ、誠実に悩み、懸命に今を生きている、この上なく愛おしく、誇らしい「自分」の姿が見えてくるはずです。
これが、私が「不安と向き合う方法」として最も大切だと考える、「現在地を認める」という作業です。「踏み出す」のは、その後からでも決して遅くはありません。
提言②:本当の解決策は「自己肯定」から始まる
「踏み出せない」自分を無理やり変えようとする(外的な変化)のではなく、まずは「踏み出せない」と誠実に悩む今の自分を、ありのまま認めてあげる(内的な肯定)こと。
50代のキャリアを考える上で、最も重要で、最も確実なスタートラインは、この「自己肯定」にほかなりません。
なぜなら、ご自身が「今の自分」を否定したまま、焦りやプレッシャーに押されて無理やり「踏み出し」たとしても、その選択は高い確率で失敗するからです。
「こんなはずじゃなかった」「結局、自分はどこへ行ってもダメなんだ」
自己否定を土台にした行動は、さらなる自己否定を生む悪循環に陥りかねません。それは私自身が、過去のキャリアで不本意な異動や「都落ち」と感じるような転職を経験し、痛いほど実感してきたことでもあります。(その経験は、また別の機会にお話しできればと思います)
スティーブ・ジョブズの有名な言葉に「点と点」の話があります。一見バラバラに見える経験も、後から振り返れば一本の線として繋がる、という信念です。
まさに、「親の視点」で今の自分を認めることは、これまで歩んできた人生の「点」(成功も失敗も、踏み出せたことも、踏み出せなかったことも含めて)すべてを肯定することに繋がります。
その「自己肯定」という揺るぎない土台があって初めて、私たちは、他人の評価や世間の声に惑わされることなく、「自分にとっての本当の次の一歩」を冷静に見極めることができるようになるのです。
結論:「キャリアのリノベーション」という、もう一つの道
そして、この「親の視点で現在地を認め、過去のすべてを肯定する」というプロセスこそが、私たち湘南キャリアデザイン研究所が最も大切にしている「キャリアのリノベーション」の真の入り口です。
「キャリアのリノベーション」とは、流行りのスキルを身につけて、条件の良い会社に転職すること(リフォーム)ではありません。
それは、まずご自身の「内側」と徹底的に向き合うことから始まります。
STEP 1: 「終活」の視点で「原点」を発見する
「キャリアのリノベーション」の最初のステップは、意外に思われるかもしれませんが、「終活」です。ただし、それは死の準備ではありません。私自身の親の看取りや実家じまいの経験から確信した、「人生の終わりから逆算して、今をどう生きるか」を問う、極めて前向きな自己分析のプロセスです。
「誰に、何を残し、何を託したいか」
この問いと真剣に向き合うことで、他人の評価や社会的地位といった「鎧」を脱ぎ捨てた、あなただけの「原点」(本当に大切にしたい価値観)が、驚くほど明確に浮かび上がってきます。
STEP 2: 「自分史」の作成で「底力」を確立する
次に行うのが、「自分の歴史(自分史)」を丁寧に振り返ることです。「踏み出せない」と悩んでいる今、ご自身の強みが何なのか、わからなくなっているかもしれません。
しかし、HRMの専門家として断言しますが、50代まで真剣に歩んできたあなたに「強み」がないなどということは、絶対にあり得ません。
「親の視点」でご自身の過去を振り返り、嬉しかったこと、悔しかったこと、乗り越えてきたこと、そのすべての「喜怒哀楽」を伴った経験価値を、ご自身の「言葉」で意味づけし、紡ぎ直していく。
このプロセスを通じて、あなた自身がまだ気づいていない、揺るぎない「底力」(あなただけの強み)を可視化し、確立します。
「踏み出せない」のは、あなたの能力が足りないからでも、意気地がないからでもありません。もしかしたら、それは、あなただけの「原点」や「底力」が、まだご自身の中で明確になっておらず、自分の価値の原石を見定まっていないから、というだけなのかもしれません。
自分を「親の視点」で温かく認め、自分だけの「原点」と「底力」を確立する。
その確かな「自己理解」と「自己肯定」という土台の上に立ったとき、あなたが本当に納得できる「次の一歩」——それが「力強く踏み出す」ことなのか、あるいは「誇りを持って留まる」ことなのか、はたまた「ゆっくりと歩み方を変える」ことなのか——が、今度こそ、自然と見えてくるはずです。
「踏み出せない」と、一人でご自身を責めないでください
50代のキャリアは、一直線の登山ではありません。一度立ち止まり、現在地を確認し、自分にとって本当に必要な荷物(価値観)は何かを見極め、自分だけの「次のルート」を再設計する、大切な「リノベーション」の時期です。
「踏み出せない」と悩むのは、あなたがご自身の人生に、それだけ誠実に向き合っている証拠です。
もし、その「現在地を認める」プロセスや、ご自身の「原点」「底力」を発견する旅に、30年のHRM専門家であり、同じ50代の当事者でもある「伴走者」が必要だと感じたなら。
その時は、湘南キャリアデザイン研究所の「キャリア・リノベーション個別相談」(初回60分・無料)のことを、ふと思い出していただけたら、嬉しく思います。