早期退職の募集要項をパソコンの画面に映し出しながら考え続ける。
あるいは、ダウンロードしたばかりの「早期退職エントリーシート」を机の上に広げながら、深くため息をついてしまう。
「書かなければ」「考えをまとめなければ」と思えば思うほど、ペン先が止まる。
頭の中には、30年間の会社生活の記憶が走馬灯のように駆け巡っているのに、それを「強み」や「自己PR」という言葉に変換しようとすると、急に嘘っぽく思えてしまう。「それは、本当に私の実績、実力なのか？」と。
「今の会社での役職がなくなったら、自分に何が残るのだろう？」
「そもそも、50代の自分を欲しがる企業などあるのだろうか？」
「これは『新たな挑戦』なのだろうか、それとも辛い現実からの『逃げ』なのだろうか？」
もし、このような「言葉にできない感情のもつれ」をあなたが感じて立ち止まっていらっしゃったとしても、深く悩まないでいただきたいです。
あなたが決断できないのは、優柔不断だからではありません。あなたがこれまでのキャリアを、そして家族やこれからの人生を、誰よりも真剣に考えているからこそ、悩みが深まっているからなのです。
あなたが悩みの本質を確かめ納得いく決断したいとき、誰かに相談することがあろうかと思います。一人で決断しきれないことってありますから。
今日は、そんな50代のあなたにこそ知ってほしいことがあります。それは、自分のキャリアに関する相談をする際のポイントです。
悩みの渦中にあるとき、人は思考を停止させがちです。思考しているつもりでも、実質的に停止しているのです。50代のビジネスパーソンが早期退職や転職という人生における転機を考えるとき、多くの人は、「手放すことへの恐れ」を感じます。状況を難しくしてしまう要因は、「手放すことへの恐れ」がどのように構成されているか、言葉にしづらいということです。
ゆえに、50代のビジネスパーソンが、自分のキャリアの分岐点に立って、将来のキャリアに関して相談する際、「手放すことへの恐れ」を解消できるかという点を重視すべきです。
なぜ、一人で考えると「手が止まる」のか？
多くの50代ビジネスパーソンは、いざキャリアの棚卸しをしようとして、思うように先に進められないケースが多いものです。2つの心理的な要因があると、私は考えています。
「成功体験」を探そうとするバイアス
市販のワークシートや、公的なキャリア支援ツール（ジョブ・カードなど）は、基本的に「プラスの要素」を抽出するように設計されていると私は捉えています。
「売上を〇〇％アップさせた」「プロジェクトを成功に導いた」「部長として部下〇〇人をマネジメントした」。
確かに、これらの成功体験は誇らしい実績です。そして、これらのことを明確に認識することは大切なことです。
他方、50年も生きていれば、人生はそれほど単純ではありません。
あなたの記憶に強く残っている、たとえば、
- 「不本意な異動で、やりがいのない部署に飛ばされた悔しさ」
- 「上司との折り合いがつかず、評価されなかった虚しさ」
- 「家庭を顧みずに働き、気づけば家族との距離ができてしまった寂しさ」
といった、「痛み」や「葛藤」の記憶もなにかしらあるはずです。
市販のワークシートに、これらの葛藤を書き記すためのスペースは用意されていません。
ゆえに、あなたは無意識にこれらの記憶に蓋をして、「よそ行きの顔」を作ろうとします。「よそ行きの顔」とは、本音を隠すということでもあります。
誤解を恐れずに言うと、そこに、自分の熱量は反映されないのではないでしょうか。本心ではないことを直視する。これが「手が止まる」第一の理由です。
「手放すことへの恐れ」と損失回避性
もう一つの、そしてより根深い理由は、「手放すことへの恐れ」です。
人はだれしも「損失を回避したい」ものです。人は「得をする喜び」よりも「損をする痛み」を強く感じる傾向があるといわれています。「損失の心理的影響は、利益の約2倍程度強い」と言われています。
50代のあなたにとって、「役職」「社会的地位」「毎日のルーティン」「長年の人間関係」、そして「安定した給与」。これらは、あなたのアイデンティティの一部になっています。
早期退職や転職を考えることは、これらを自ら手放すことを意味します。
頭では「新しいキャリア（獲得）」を求めていても、心は「今の安定を失うこと（損失）」を強烈に恐れています。「新しいキャリア（獲得）」が「今の安定を失うこと（損失）」を大きく凌駕するならば、そもそも悩みは生じないでしょう。「獲得」と「損失」が心の中でせめぎあっているからこそ、「手放すことの恐れ」は大きくなります。この「相対する心のもつれ」がある限り、どれだけ論理的に損得勘定をしようとしても、思考は空回りし続けます。
ゆえに、一人で論理的に考えているつもりでも、「恐れ」を客観視できていないのです。
公的サービスも有力なサポート資源
「キャリアの相談なら、公的サポートもありますよね。厚生労働省の無料サービスでもいいのではないか？」
そう考える方もいらっしゃるでしょう。
実際、国が主導する「キャリア形成・リスキリング支援センター」で、個人を対象とした無料のセミナーや相談の仕組みが充実してきています。
ゆえに、50代のビジネスパーソンが早期退職や転職という人生における転機を考えるとき、こういった公的サポートを活用することは、悩みを解消するために有力な選択肢の一つです。
しかし、公的サービスでは、手が届かない部分があると、私は感じています。
機能的アプローチとして公的サービスを活用する
公的サービスは、広く、多くの人を対象にします。たとえば、「ジョブ・カード」によるスキルの棚卸し、資格情報の提供、求人動向の解説等が広く、多くの人に提供されます。これらの情報をもとに、自分の客観的なスペックは一定程度、整えられるでしょう。
公的サービスは、「今、どう動くか」という点にフォーカスしている部分があります。「職務経歴書のきれいな書き方」「失業給付の手続きを踏まえた転職活動」等を把握したいのならば、公的サービスは非常に有効なツールです。
公的サービスではカバーできない領域がある
一方、公的サービスでは手が届き難い部分があります。それは、深く狭く、個人の内面と向き合うという部分です。自分が経験してきた価値を丁寧に掘り下げるには、あなたがなるべくならば隠しておきたい「不の感情」や「過去の葛藤」にも目を向ける必要があります。艱難辛苦を介して経験したことは、自分を差別化する強力な要因だからです。
たとえば、当研究所（湘南キャリアデザイン研究所）では、自分の人生から逆算して価値観を見極めていきます。「誰に何を残し、誰に何を託したいか」という終活の視点と自分の過去の出来事を丁寧に振り返ること（自分の歴史を丁寧に振り返ること）を掛け合わせて、自分の真の価値観を探り当てていきます。
時間軸として、最期から逆算し、過去から現在を丁寧に振り返るという、時間も手間もかかるものです。しかし、これから大切にしていきたい価値観は、振り返る時間軸（未来、過去、現在）の分だけ、解像度は高くなります。なぜ生きるのか、何を遺したいのかから逆算して、今の決断を導き出すからです。
早期退職の決断には「機能」と「意味」の両方が必要
50代のビジネスパーソンが、自らの意思で、自らの未来の行方を見定めることは、思いのほか心理的にきついものです。ゆえに、頭では理屈が通っていても、心のどこかに「ひっかかり」があると、思考停止したり、結論を先送りしたり、なかったことにしてしまいます。
ゆえに、自分の本心を、正直に捉えることが何よりも重要なのです。
なお、公的サービスでは、相談する担当者はある意味、「時の運」になりがちです。無料であるがゆえに致し方ない部分ですが、人生の重要な転換期を「時の運」に委ねることに躊躇してしまう方もいらっしゃると思います。
自分の早期退職や転職を相談するとき、自分の境遇を深く受け止められる相手を自ら選ぶことが重要ではないでしょうか。
キャリアの転換期に持っておきたい３つの視点
では、具体的に50代のキャリアの転換期に持っておきたい３つの視点を、当研究所がご提供している「キャリア・リノベーション個別相談」の流れに沿ってお伝えします。
「キャリア・リノベーション個別相談」は、単に話を聞くだけのものではありません。ビジネスパーソンであるあなたの貴重な時間をいただく以上、つぎの３つをお持ち帰りいただきます。
① 「感情のもつれ」の言語化の仮設定
50代のビジネスパーソンが早期退職や転職の意思決定に迷う最大の理由は、「手放すことの恐れ」の原因を自分の言葉で言語化できていないことにあります。
「なんとなく不安」「今のままでいいのか分からない」。このような「違和感」は、自分一人では整理しづらいものです。自分のことは自分が一番わかっていると思っていても、実は自分のことはわかっていないものです。客観視することの難しさとも言えます。
キャリア・リノベーション個別相談の場では、仮に悩みがまとまっていなくても差支えありません。あなたが恐れているのは、手放したいことは何か。収入か、名誉か、人とのつながりか？」等を対話により紐解いていきます。
絡まった糸を一本ずつ紐解き「何がひっかかりなのか」を仮設定します。
② 未来に向けた「打ち手（案）」の提示
「ひっかかり」が明確になれば、具体的な解決策を立てやすくなります。
「早期退職に応募すべきか、留まるべきか」「転職市場での価値をどう高めるか」。 HRMの専門知見と、数多くの50代のビジネスパーソンの転換期を伴走してきた経験から、最適と思われる「打ち手（案）」を提示します。
相談に来られた方が大切にしたいこと、なるべくならば遠ざけておきたいことを踏まえてその方に相応しい「案」をお示しします。
③ 「打ち手（案）」を実行する先の提示
ここが最も重要です。
キャリア・リノベーション個別相談は、簡易的でありますが、現状の冷静な分析と今後の進め方の一案をお示します。
「打ち手（案）」を実行することで、手に入れられることをお示しします。相談に来られた方によって、手に入れられることは異なります。「ひっかかり」の原因をもとに、将来の見通しを体感していただきます。
なお、「打ち手（案）」を実行することに、お役立ちできないと私が判断した場合は、正直にそのことをお伝えします。私の専門的領域では対応できないこともあるからです。
もっとも、その場合であっても、「感情のもつれの仮設定」と「未来に向けた「打ち手（案）」の提示」は、少なからずお役にたつと思います。50代のビジネスパーソンの方が、後悔のない意思決定にお役立ちできるのならば、この上ない喜びです。
「手放すことへの恐れ」を断ち切るには「対話」という場が必要
一人で悩み続けていると、思考は必ずループします。
「ＡかＢか」と悩み始め、一周回って「やっぱりＡかも、でも怖い」と同じ場所に戻ってきてしまう。
そうこうしているうちに、早期退職の募集期限が目の前に迫り、勢いで決めてしまうことになるかもしれません。
このループを断ち切る唯一の方法は、「思考を外に出す（アウトプットする）」ことです。
「人は、言葉にできないことは認識できない」
言葉になっていないことは、脳は認識しません。ゆえに、有効な解決策を導き出すことができないのです。
私がおすすめしたいことは、信頼できる第三者との「対話」です。
- 自分の感情を言葉にし、テーブルの上に並べる
- その感情が何を意図しているか、事実をもとに掘り下げる
- たった一度しかない人生で、自分が「残し」「託し」たいことを整理する
時間も手間もかかることをおすすめしていますが、自分の本心と向き合い、納得感のある50代の転換期を乗り越えるには、必要な時間です。
これは自信をもって言い切れます。
「まだ考えがまとまっていないのですが、いいでしょうか？」
もちろんです。
考えがまとまっていないからこそ、キャリアのリノベーションがお役にたてるのです。
「言葉にできない感情のもつれ」を抱えたまま、お越しください。
そのもつれを解き、「手放すことへの恐れ」を解消することで、
50代のビジネスパーソンが、早期退職や転職というキャリアの転換期における納得できる選択を手に入れられるからです。
まずは、気軽にお問い合わせください
まずは私と話をしませんか。
ウェブサイトのお問い合わせフォームには、詳細な相談内容を選ぶ項目を設定していません。
そのため、「何を書けばいいのだろう」「立派な文章で状況を説明しなければ」と迷われるかもしれませんが、そのような心配は一切無用です。
- 「ブログを読みました。早期退職について迷っています」
- 「自分のキャリアについて、モヤモヤしています」
たったこれだけ、一言添えていただくだけで十分です。
メッセージを受け取りましたら、必ず私から返信します。
「あなたの50代からのキャリアで実現したいことを言語化」し、未来への「期待」に変える時間を共有できることを、心から楽しみにしています。