早期退職「応募すべきか?」50代が後悔しない思考法

「会社の早期退職募集が開始された。そして、自分も『応募可能な対象』に含まれていると知った」

50代の管理職として、日々組織を牽引してきたあなたにとって、この事実はどのような響きをもって受け止められたでしょうか。

「ついに来たか」という覚悟かもしれません。
あるいは、「なぜ自分が」という動揺や焦りかもしれません。
いずれにせよ、応募締切までの限られた時間の中で、あなたは「応募する」か「残る」かという、ご自身のキャリアにおける極めて重大な「判断」を迫られています。

「割増退職金は魅力的だが、この先の収入はどうなる?」
「もし会社に残ったとして、自分の居場所はあるのだろうか?」
そんな思考が、堂々巡りしているかもしれません。

私たちが生きる2025年という現在は、変化のスピードがかつてないほど高まっています。「ユニクロの無人レジ(商品一括スキャン)」や「東海道新幹線の予約アプリ」のように、かつて人が介在したプロセスそのものが、AIやICTによって根本から再構築されています。

あなたが会社で携わっている仕事においても、AIが活用される場面やICTのめざましい発達を目にする機会が増えていることでしょう。

「ChatGPT」「Claude」「Gemini」といった生成AIの進化は凄まじく、誰もがAIを活用できる環境が整いました。ビジネスモデルの抜本的変革は、すでに他人事ではないはずです。

人事の定型業務ですらAI化される中、50代の管理職であるあなたの仕事を取り巻く環境も急激に変化するはずです。
この「変化」の現れの一つが、「早期退職の募集」とも考えられます。
もし、あなたが、早期退職の応募対象者で、応募を検討されているならば、是非この記事をお読みください。

「応募締切」という時間的制約に追われ、思考する「余力」を失った状態で判断したくない。
「早期退職するか、今の会社に残るか」という選択を「後悔したくない

このような切実は願いは、当たり前のことです。
しかし、もしその判断の軸が「目先の損得」や「周囲の目」に左右される要素が大きければ、あなたは数年後、どちらの道を選んでいたとしても、きっとこう呟くことになります。

「こんなはずではなかった」と。

この記事では、「応募する/しない」という目先の判断(How)の前に、あなたが「後悔しない」ために絶対に確立すべき「思考法(Why/What)」について、最低限知っておいていただきたい事項をお伝えします。

1.なぜ、あなたは「迷う」のか? 脳科学が示す「後悔したくない」のジレンマ

応募締切が迫る中、「応募すべきか、残るべきか」というジレンマに陥り、思考が停止してしまう。

いずれを選ぶかは自分にある。
選ぶまでは、「会社をやめる」と「会社に残る」という矛盾する事項が目の前に存在する。
いずれかを選択すると、選択しなかった方に未練を感じ、葛藤が生じる。

もしあなたが今そのような状態にあるとしても、ご自身を責める必要はまったくありません。
「後悔したくない」という切実な思いが強ければ強いほど、「決められない」状態に陥るのは、あなたの意思が弱いからではなく、人間の「脳」のメカニズム上、きわめて自然な反応だからです。

脳が引き起こす「3つのジレンマ」

  • 感情と理性の対立
    「早期退職」という人生の大きな選択では、この2つが激しく矛盾します。
    「割増退職金(理性的利益)」と「職を失う不安(感情的恐怖)」がせめぎ合い、葛藤(ジレンマ)を引き起こすのです。
  • 「決断疲れ」による先送り
    早期退職を検討するプロセスでは、「もし応募したら、お金は…」「もし残ったら、人間関係は…」と、無数の小さな意思決定を短期間で繰り返します。これにより頭が相当疲弊します。「考えたいのだか、考えたくない」という感じです。「決断することの疲れ」の状態。意志力が減退し、合理的な判断ができなくなったり、「決断そのものを先送りしたい」という心理が働いたりするのです。
  • 「認知負荷」による思考停止
    選択肢のもつ意味が重要であり、過去に経験したことのない判断を求められる場合、脳の情報処理能力の限界に近づきます。冷静な知性と情熱的な判断に必要な脳の「余裕と余白」が無くなるのです。これにより精神的ストレスが増大し、「誤った決断への後悔を避けたい」という心理が異常に強く働き、結果として「決められない」という思考停止状態に陥ります。

「余力」を失った脳の危険性

つまり、あなたが「迷う」のは、あなたの脳が正常に働いている証拠なのです。
しかし、問題はここからです。

実は、私も43歳で転職したとき、意思決定におけるジレンマに陥りました。
当時在籍していた会社に「退職すること」を伝えることに躊躇しましたし、転職先にも「転職すること」を明確な意思表示として伝えられませんでした。

いろいろと迷いに迷いました。
行き帰りの通勤電車の中で、じっくりと考えようと思っていても、考えることを回避したいために「寝て」過ごしました。下車する駅についたとき、「しかたない、寝てしまったんだから」と自分に言い聞かせていました。

当時、転職という一大決心するために必要な脳の「余裕と余白」がなかったことに想いが至らず、自分の内心を深く掘り下げることができなかったのです。

したがって、早期退職という重大な意思決定には、自分の脳に、「余裕と余力」をもつことが極めて重要です。キャリア観を捉え直すための準備を万全に整えるということです。
この準備が整わない中で、早期退職という重大な意思決定は絶対に避けるべきと、私は考えます。右往左往したり、自暴自棄になったりして、自らが望むキャリアを歩めなくなる可能性が格段に高まるからです。

「早期退職」するか否かで迷うことは、当然のことです。
「早期退職」という機会が、「自分は何をやりたいだろうか?」という深い問いの出発点でもあるからです。会社勤めしているビジネスパーソンの多くは、会社から、担う役割、仕事が与えられます。会社がキャリアの行方を決めていたとも言えます。それゆえ、自らが主体的にキャリアを選択する機会をもつことは、稀なことです。
50代のビジネスパーソンが、「早期退職」した後、会社勤めしていた期間とほぼ近しい時間を過ごすにあたり、自ら未来を選ぶことは、簡単なことではありません。

先に示した3つのジレンマ(感情と理性の対立、決断疲れによる先送り、、認知負荷による思考停止」で正常な意思決定を下すことが難しい状態。この状態で、「勢い」で判断することこそが、「後悔」を生む最大の原因になると、私は考えます。

今あなたがやるべきことは、[早期退職」に「応募する/しない」という目先の二択に飛び込むことではありません。
まずは、「自分は今の状態を冷静に見極めること。正常な判断が難しい状態ではないこと」を前提とすることが適当です。そのうえで、立ち止まって、ご自身のキャリアを判断するための「思考法」そのものを見直すことです。

2.判断の軸は「過去」にある。徹底的に内省する「3つの視点」

では、「後悔しない」ための「思考法」とは何でしょうか。
それは、未来の不安や、現在の損得勘定からいったん離れ、「自分の過去を徹底的に振り返る(内省)」ことです。
スティーブ・ジョブズの有名な言葉を借りるまでもなく、過去の一つひとつの出来事は「点」となって現在を形成し、未来につながっています。
「早期退職」と対峙するにあたり、過去の出来事を「点」として捉え直すことは、極めて重要な取り組みです。

とは言っても、社会人として30年近いキャリアを一つひとつ整理するには、それなりに時間が必要です。

そこで、今回は、過去の出来事を内省するにあたり、最低限押さえておきたい事項を、3つの視点としてお示しします。

  • 視点1:自分がチカラを尽くして、組織に貢献した経験は何か?
  • 視点2:自分が能力を高めて、組織に対してインパクトを与えた経験は何か?
  • 視点3:自分が何のプロフェッショナルであると明言できるか?

応募締切が迫る中、こんな悠長なことをしている暇はない、と思われるかもしれません。
ですが、この3つの問いに対する「あなただけの答え」こそが、AI時代にも揺らがない、あなたの「判断の軸」=「価値観の軸」となるのです。

3.【内省の実践】あなたの「貢献」と「そのインパクト」は何か

前章で提示した3つの視点のうち、特に50代の管理職であるあなたにとって重要な「視点1」と「視点2」に関して、その「思考法」を解説します。

「自分が夢中になれるポイント」を知る

「自分がチカラを尽くして、組織に貢献した経験は何か?」
この問いの本質は、「何を成し遂げたか(実績)」をリストアップすることではありません。
その実績の裏にある、「なぜ、あなたは(誰に言われずとも)チカラを尽くせたのか?」という、ご自身の「動機の源泉」を突き止めることです。
この「チカラを尽くした経験」を振り返る目的は、「自分らしく動いているときの条件(好き/嫌い)」を炙り出すことです。

  • 上司から大きな裁量を与えられていた時か?
  • 部門を超えた難しい調整を任されていた時か?
  • 誰もやりたがらない泥臭い仕事に、意義を見出していた時か?
  • 部下の成長が、何よりの喜びだった時か?

あなたが夢中になれるポイント、すなわち「ご自身の価値観が満たされる条件」を言語化する。「早期退職」の判断において、「お金」や「体面」といった外部の軸ではなく、「自分はこの先、その価値観が満たされる環境に身を置きたいか」という内部の軸で下せるようになります。

「自分の会社に対する貢献ポイント(インパクト)は何か

「自分が能力を高めて、会社に対してインパクトを与えた経験は何か?」
50代の管理職であるあなたが貢献したポイント(「インパクト」)とは、個人の業績(プレイヤーとしての成果)だけを指すのではありません。
あなたの、「組織における自分の立ち振る舞い(人間力)」を言語化することも含めることが大切です。

  • あなたがその場にいるだけで、組織の空気が引き締まる。
  • あなたがいるから、若手が安心して挑戦できる。
  • あなたが関わると、なぜか難航していたプロジェクトが前に進む。

これらは、AIには決して代替できない、あなたという個が持つ「人間力」であり、組織への重大な「インパクト」です。
この「インパクト」の源泉(=あなたの強み)を自覚できれば、
「早期退職した場合、現職を退職した後に在籍する会社や組織に対して、どのような貢献ができるか」「もし現職に残った場合、自分は会社ににどのような価値を提供し続けられるか」という問いに、明確な答えを持つことができます。

4.AI時代を生き抜く「創造する力」を見いだす

この「内省」を通じて見えてくるものこそ、AI時代にも代替されない、あなたの「基礎力」「専門力」「再現力」が言語化されます。
AIが瞬時に「答えらしきもの」を生成する時代だからこそ、盲目的にその回答を肯定せず、あえて批判的に捉え直し、「解」の精度を高める力が必要になります。

「なぜ今、自分はこの判断を迫られているのか?」
「AIが示す最適解は、本当に自分の価値観と重なる部分はあるか?」
この「問い直す力」こそが、あなたの「思考法」の核となります。
そして、この「クリティカルシンキング」を実践する

理想と現実のギャップから問題を見いだし、その問題を構成する課題を形作る。
課題を解決することを通して問題を解決する
正解のない問いに対峙するには、「問いに対峙する思考の道筋」を創造する力を自分にそなえておくことが必要不可欠です。

あなたは「ストーリー」をつくれますか?

「ストーリー」とは、「あなたの積み重ねてきた過去の歩み」という意味です。単なる作文ではありません。

「ストーリー」は、心の底から楽しんだ経験、困難な障壁を乗り越えた「快」と「痛み」の経験、を通して紡ぎ出されます。私は、「修羅場」の経験を丁寧に紐解くことで、「ストーリー]に深みをもたらすと考えます。

たとえば、修羅場において、

  • 「どのような役割をになっていたか」
  • 「どのようなトラブルに対峙したか」
  • 「そのトラブルにどのように対処したか」
  • 「そのトラブルに対処した結果、何を実現したか」
  • 「実現したことは自分にとってどのような意味があったか」

このような5つの要素で「ストーリー」を捉え直すことをおすすめします。

【まとめ】「応募するか否か」ではなく、「あなたの軸」で未来をデザインする

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

「早期退職に応募すべきか否か」という、あなたの切実な問いの立て方そのものが、実は「思考の罠」であったことに、お気づきかもしれません。
あなたが持つべき「思考法」とは、内省を通じて確立した「あなたの軸(=夢中になれる条件、人間力、そしてAIを使いこなしクリティカルシンキングで決断する力)」を基に、
自分はこれから、どう生きたいか?
を、問い直すことです。

応募締切に追われ、「余裕と余力」がない状態で下した決断は、「応募する」「残る」のどちらを選んでも、「後悔」につながりやすくなります。
この内省を通じてご自身の「軸」を確立できたなら、その結末はまったく異なります。

その「軸」を新たな環境で発揮したいと願うなら、「応募する」決断は、自分の未来をく「創造する力」への主体的な投資となります。
その「軸」を今の組織でこそ活かせると判断するなら、「残る」決断も、会社に新たな「インパクト(人間力)」で貢献する主体的な選択となります。
どちらを選んでも、そこに「後悔」はありません。あるのは「主体的な選択」だけです。

一度かぎりの人生ですから、「後悔」する可能性を極力小さくすることが大切です。

この記事では「早期退職」にかかわる検討に際して、最低限取り組んでおきたいことをお伝えしました。

他方、より深く自分を掘り下げることが、「後悔する可能性」を極力小さくすることであると、私は考えます。
もし、あなたが「ご自身の価値観」という最後の拠り所を見つけるのに苦労されているとしたら。
私は、その「キャリアのリノベーション」の最適な入り口が、「終活」にあるとお伝えしています。

「終活」と聞くと、死への準備、とネガティブに捉えるかもしれません。
しかし、私(湘南キャリアデザイン研究所)が提唱する「終活」は、“身辺整理”ではなく「人生の終点から現在を設計する思考法」と再定義し、キャリア再設計(50代からのキャリアのリノベーション)の原点として活用することを提案しているものです。

終活が投げかける核心の問いは「人生の最後に心から満足と言える状態とは何か」。
この問いに向き合うことで、以下の3つの効用が明確になります。

  • これまでの挫折や遠回りを“点と点”として意味づけ直す「経験価値の再定義」
  • 「誰に何を残し、誰に何を託すか」を家族と対話し関係性を整える準備
  • 仕事を“誰かのための貢献”へと昇華する使命感

「早期退職」という目の前の「点」で悩むのではなく、「人生の集大成(終活)」という「線」からご自身のキャリアを捉え直す。このプロセスを経ることで、あなたの「納得感のある意思決定」が、自ずと見えてきます。

「終活」と「自分の過去の振り返り」を通して、キャリアを丁寧に振り返ることに興味・関心をお持ちになったならば、湘南キャリアデザイン研究所のキャリア・リノベーション相談をご活用ください。

人生の一大決心を「後悔しない」決断につなげていただきたい。

心からそのように願っています。

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