50代のビジネスパーソンの頭に、「今の会社を辞めたい」「このままここで働き続けて良いのだろうか」という思いがよぎることは決して珍しくありません。
約30年にわたり、組織の第一線で、懸命に実績を積み上げてきたビジネスパーソンにとって、50代はキャリアの大きな転換期です。役職定年を迎えたり、意にそぐわない配置転換があったり、年下のメンバーが自分の上司になったりと、これまでの延長線上にはない環境の変化に直面し、職場での「居場所」を見失ってしまう方が多くいらっしゃいます。
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「今の職場に自分の居場所はないのではないか」と孤独や閉塞感を感じている方は、こちらの記事も併せてお読みください。ご自身の置かれた状況を客観視するヒントが見つかるはずです。
かつてのような権限や裁量もないまま、ただ時間を持て余すような感覚に陥ると、「いっそ会社を辞めてしまいたい」「新しい環境に飛び出したい」という衝動的な感情に駆られるのは、ごく自然なことです。
しかし、焦燥感や一時的な感情に任せて「退職」という重大な決断を下す前に、一度立ち止まっていただきたいのです。
本記事では、退職の決断を下す前にご自身に問いかけていただきたい「5つのサイン」をご紹介します。ご自身の内面と現実を冷静に捉え直し、納得してキャリアの分岐点と対峙し、かけがえのないキャリアを再設計するための確認事項としてお役立てください。
1. 辞める前に確認したい「5つのサイン」
現状に対する不満から「辞めたい」と感じているとき、私たちの視野は往々にして狭くなりがちです。そこで、5つのサインをチェックリストとしてお示しします。ご自身の現在の立ち位置を客観的に評価してみましょう。
サイン1:役割の喪失を「自分自身の価値の喪失」と混同していないか
役職やポストから外れた直後は、誰もが強い喪失感と戸惑いを覚えます。筑波大学の研究論文「役職定年者の会社に留まるキャリア選択と組織内再適応プロセスの探索的検討」によると、役職定年によって管理職という役割を喪失した際、人は「方向感覚の喪失」や「先行きへの不安」といった強いキャリアの途絶感を経験することが明らかになっています。役職者としての責務が外れた寂しさや、組織に迷惑をかけたくないという想いなど、複雑な心理的反応が生じるということです。
ここで確認すべきなのは、「役職がなくなったこと」と「あなた自身の能力や価値がなくなったこと」は全く別物であると、事象と価値を切り離して捉えることです。
たとえば、役職定年やポストオフになったとき、「もう自分は必要とされていないのだ」と感じてしまうのは無理もない話です。大事に積み上げてきたキャリアの急激な変化を、ご自身の『キャリアの危機』として受け止めてしまうことも、喪失感を深める一因でしょう。
役割の喪失と対峙するとき、頭では「事実を受け止めざるを得ない」とわかっていても、感情が追いつかないのは、やむを得ないでしょう。
しかし、この状態を続けてしまうと、50代からのキャリアを考えるときに、問題が大きくなります。
約30年間で培ってきたビジネスパーソンとしての基礎力、専門力、再現力、人間力と、仕事と向き合ってきた覚悟は、決して失われていません。つまり、懸命に仕事に取り組み、実績を積み上げてきた方ならば、「人材力」が小さくなったわけではないということです。
50代のキャリアにおいて、これまでの経験を無理に捨てる(アンラーニングする)必要はありません。意識したいことは、ご自身の人材力という強固な基盤を、役職定年やポストオフ等のキャリア転換の分岐点における環境に合わせてどう「前進」させるかにあります。
ご自身の組織における役割の喪失感と、ご自身の本質的な「人材力」という価値を切り離して考えることができているか、まずは自問自答してみてください。
サイン2:これまでの経験を、「誰かに託す、残す」に生かす道を模索したか
役割の喪失感と自身の「人材力」を切り離すには、組織において、自身をどのように生かしていけそうか、という視点を持つことが一案です。
前述の論文でも、役職定年者がポストを外れた後に、組織に再適応していくプロセスにおいて、「後進の育成・サポート役」や「組織横断の取りまとめ役」といった新たな役割を担う姿が確認されています。
自分のため、あるいは部門や部署の業績達成のために働き、貢献してきた時期を経て、今度は自分の枠を超えて、「人を支える仕事をしたい」「自身の経験を周囲や次世代に役立てたい」という思いが大きくなる方もいらっしゃるでしょう。
このようなことを感じているならば、組織人としてのキャリアの方向性の見直しを行う時期に差し掛かっているのかもしれません。
そうであるならば、会社を辞める前に、「社内で若手や組織全体を支援する役割(メンターやアドバイザー的な立ち位置)にシフトする余地はないか」を探ってみてください。これまでとは違うベクトルで「何かの役に立ちたい」という組織への貢献意欲を持つことができれば、今の会社に新しい居場所を見つけることができるかもしれません。
サイン3:家計の現実と家族の合意は得られているか
「辞めたい」という個人の強い思いがあったとしても、50代の転職や独立には厳しい現実が伴います。特に経済的な側面は楽観視したり、軽視したりすることはできません。
会社に留まるという意思決定の背景には、「家族への責任感」や「留まる方が給料は良い」といった現実的な判断材料が大きく影響していることが指摘されています。役職定年で給与が下がったとしても、冷静に家計のやりくりの見通し(家計は大丈夫か)を立て、減給を受け入れるという選択をする人が多いのも事実です。
退職後の収入減や転職活動の長期化、あるいは独立起業のリスクについて、客観的な資金計画が立っているでしょうか。そして何より、配偶者やご家族からの理解と合意は得られているでしょうか。「何とかなるだろう」という見切り発車は、後に大きな後悔を生む原因となります。
サイン4:社外の労働市場における「客観的な現在地」を把握しているか
社外へ飛び出す前に、ご自身の市場価値を冷静に測ることは極めて重要です。自分の実力なら他社でもすぐに通用するはずだ、という過信は禁物です。
役職定年を機に転職エージェントを介して転職先を模索した結果、「社外では稼げない」「社外では通用しない」という厳しい現実に直面し、結果として今の会社に留まる決断をするケースも少なくありません。
外部の労働市場を知ることで、逆に「今の環境が提供してくれている価値や安定」を再発見できることもあります。まずは社外に出た場合のリアルな選択肢とご自身の市場価値を、転職エージェント等の客観的な情報も交えてリサーチしてみることが不可欠です。
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今の会社に「留まる」べきか、他社へ「動く」べきか、あるいは独立して「離れる」べきか。具体的な選択肢のメリット・デメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
サイン5:これからの人生の「進みたい方向」は明確になっているか
最後に、そして最も重要な確認事項です。「今の仕事が嫌だから辞める」という逃避の感情ではなく、「これからの人生をこう生きたいから次へ進む」という思いがあるかということです。
50代後半から60歳定年に向けてキャリアの方向性を見直す際、「お金のためだけではない仕事をしたい」「ワークライフバランスを大事に働きたい」といった志向性の変化が生まれるとされています。
人生に残された時間と50代からのビジネスパーソンとしての残された時間を踏まえた、「進みたい方向」が言語化できているか否かを軽視してはいけません。「進みたい方向」が定まらないまま会社を辞めてしまうと、次の環境でもまた同じように「居場所がない」と悩み続けることになりかねません。
2. 悩みを解決する、あなただけのキャリア再設計(キャリアのリノベーション)
ここまで5つのサインをお伝えしました。これらを一つひとつ確認していくことは、ご自身のこれまでの歩みを振り返り、現在地を正確に把握するプロセスそのものです。
50代のキャリアの悩みは、単なる「仕事の悩み」に留まりません。ご自身の健康への不安、親の介護への対応、子どもの教育費、そして、「残りの人生をどう生き、どう締めくくるか」という、深いテーマとも直結しています。
湘南キャリアデザイン研究所では、この時期のキャリア構築を、単なる転職活動やスキルアップの延長として捉えるのではなく、「終活の視点」を取り入れた『キャリアの再設計(キャリアのリノベーション)』として位置づけています。
終活とは、死への準備ではありません。
それは、ヒト、モノ、コト、カネを「誰に何を残し、誰に何を託すか」という視点と、誰もが逃れることのできない「死」から逆算して、自分の人生をデザインしていく(整えていく)、とても前向きな活動です。自分が何を大切に生きてきたか、これから何を大切に生きていきたいか。そうやって、自分の内なる声に深く耳を澄ませ、自分の原石を見つめ直すための大切な時間です。
湘南キャリアデザイン研究所は、終活を生き方の再設計の原点と定義しています。すなわち、自分の価値観を振り返り、整理する入り口と捉えているのです。
約30年かけて築き上げたあなただけの経験や歴史、そしてご家族への想いや個人的な価値観。それらすべてを大切に振り返り、過去の経験を捉え直し、50代からのより豊かな時間を手にしていく。この、これまでのキャリアを自分の言葉で力強く再設計するプロセスこそが「キャリアのリノベーション」なのです。
3. ひとりで抱え込まず、プロの伴走型サポートを活用しませんか
50代のビジネスパーソンが「会社を辞めたい」「会社に居場所がない」という悩みを抱えたとき、そのことを友人、同僚や家族にはかえって打ち明けにくいものです。一人で思い悩み、自分が集めた情報を頼りにキャリアの分岐点で意思決定することには、慎重になることをおすすめします。
必要なのは、誰かの正解ではありません。あなた自身が自分の言葉でつむいだ、素の自分が大切にしたい価値観にもとづく判断基準です。
ここまで読んでも、まだ答えが出ないのは自然なことです。
もし一人ではそこが見えにくいと感じたら、湘南キャリアデザイン研究所の「キャリアのリノベーション相談(60分、無料)」をご活用ください。まだ考えがまとまっていなくてもかまいません。対話を通して、迷いの輪郭と、どこから整理すると前に進みやすいのかを一緒に確かめていきます。
何から整理すればよいかが見えることで、自分なりの打ち手を手に入れることができます。
「誰に相談するのがよいのか」から整理したい方は、「50代のキャリア相談、誰にする?失敗しない相談相手の選び方」も参考にしてください。
- 今の会社に留まり、新たなやりがいを見つけるべきか
- 培ったスキルを生かして、新たな環境(転職)へ挑戦すべきか
- 本当にやりたかったことを実現するために、独立起業の道を探るべきか
答えは一つではありません。あなた自身の内側に眠る「本当の思い」を、「終活」と「自分の歴史の振り返り」を通して、自分の言葉で言語化し、納得のいくキャリアの再設計を共に進めていきましょう。