50代のキャリア、それは「建て替え」ではなく「リノベーション」の時期
50代を迎え、仕事にも、人生にも、一通りの経験を積んできた。しかし、ふとした瞬間に、「このままでいいのだろうか?」という問いが心をよぎることはありませんか?
この感覚は、まるで目的地を入力していないカーナビを眺めている状態に似ています。あるいは、タクシーに乗って運転手に「どこか良いところへ」と告げるようなもの。運転手が良かれと思って連れて行ってくれた場所が、あなたの心が本当に求めていた場所であるとは限りません。
多くの方が、50代からのキャリアチェンジを、ゼロから家を「建て替える」ような、大変で困難なことだと考えがちです。しかし、本当に必要なのは、これまでのキャリアをゼロにする「建て替え」ではなく、培ってきたものを土台により良くしていく「リノベーション」という考え方です。
家のリノベーションでは、その家の持つ味わいや、頑丈な柱や梁といった価値あるものは残し、変えるべき間取りや内装を変えて、暮らしをより豊かにしますよね。キャリアも同じです。あなたの50年以上の歴史という土台の上に、残すべき価値(=原点・底力)を見極め、変えるべき思考や行動(=設計図)を再構築する。それが「キャリアのリノベーション」です。
では、そのリノベーションの第一歩、つまり「どこに価値があり、どこを変えるべきか」を明らかにするために、最も確実な方法とは何でしょうか。
そこで、当研究所が提案するのが、一見遠回りに見える「終活」からキャリアを考えるというアプローチです。この記事では、キャリアをリノベーションするための具体的な「3つのステップ」をご紹介します。
STEP 1:『原点』を発見する — なぜなら、キャリアはリノベーションできるから
キャリアをリノベーションできると断言できるのには、明確な理由があります。それは、リノベーションの土台となる価値ある「柱や梁」が、すでにあなたの中に存在しているからです。
「役職定年」や「会社からの評価」。これらは、自身のプライドやアイデンティティを揺るがす大きな出来事かもしれません。しかし、私は、そのプライドやこだわりを、決して否定しません。なぜなら、それこそが、あなたが人生で何を大切にしてきたか、その価値観の源泉を示す、極めて重要な手がかりだからです。
しかし、ここからが内省の最も重要なステップです。その大切にしてきた価値観が、皮肉にも、今のあなたの「不」— つまり、行き詰まりや悩みの原因になってはいないでしょうか?
例えば、これまであなたを突き動かしてきた強固な「責任感」という価値観。それは管理職として評価され、多くのプロジェクトを成功に導いた原動力だったはずです。しかし、役割が変わり、後進の育成を期待されるようになった今、その同じ「責任感」が、「部下に任せられない」「全て自分で抱え込む」という過干渉な行動として表れていないでしょうか。
内省とは、この価値観そのものを捨てることではありません。その価値観の「とらえ方」や「表現の仕方」を変えられないかと、自分に優しく問いかける作業です。
これは、まさに家のリノベーションと同じです。
頑丈な柱や梁(あなたの中心的な価値観)は、これからもあなたを支える最も重要なものです。しかし、その周りの内装や間取り(価値観の表現方法や行動)を変えることで、家全体(あなたのキャリア)は、今のあなたにとって、より快適で、より価値ある空間へと生まれ変わるのです。
「終活」という究極の視点に立つことで、私たちは初めて、この「柱や梁」と「内装」とを冷静に区別し、キャリアの『揺ぎない軸』、つまり『原点』だけを、純粋な形で取り出すことができるのです。
土台がしっかりしているからこそ、キャリアは何度でもリノベーションできるのです。
STEP 2:『底力』を再確認する — なぜなら、そのリノベーションは難しくないから
「キャリアのリノベーション」と聞くと、何か特別な才能や、困難な努力が必要だと感じるかもしれません。しかし、そのプロセスは、決して難しいものではありません。なぜなら、過去を価値に変えるための、明確で誰にでも実践できる手法が存在するからです。
あなたの50年以上の歴史は、あなただけのユニークな価値を分析するための、膨大な「一次情報(データ)」の集積です。
STEP 1で確立した『原点』(価値観)という新しいレンズを通してご自身の歴史(自分史)を丁寧に振り返ることで、その本当の意味が明らかになります。例えば、複雑な人間関係の調整に奔走した経験は、あなたの「調和を重んじる」価値観と「粘り強く解決策を探る」強みの証明です。誰もが不可能だと思った課題に取り組んだ経験は、「諦めない執念」と「創意工夫する力」という、かけがえのない資産の証となります。
これは、故スティーブ・ジョブズ氏が語った「点と点をつなぐ(Connecting the Dots)」¹という考え方に通じます。人生で起こる様々な出来事(点)は、後から振り返ることで、一本の線として繋がっていることに気づく、というものです。
当研究所の「経験価値分析」は、まさにこの「点と点をつなぐ」作業を、誰でも実践できるよう体系化したものです。特別な能力は必要ありません。確立された手法に沿って自分と向き合うだけで、あなたの中に元々あった自信を再確認することができるのです。
¹ 脚注:スティーブ・ジョブズ氏が2005年、米国スタンフォード大学の卒業式で行った伝説的なスピーチの一節。将来を先読みして点と点を繋ぐことはできず、後から振り返って初めて繋げることができると述べました。
STEP 3:『設計図』を描く — なぜなら、そのリノベーションは人生を豊かにするから
そして、キャリアをリノベーションさせる最大の目的。それは、残りの人生を、より豊かに、あなたらしく生きるためです。
『原点』(WHY:目的地)と『底力』(WHAT:自分の車の性能)が明確になって初めて、私たちは「これからどうするか(HOW:最適なルート)」という問いに、自信を持って答えることができます。
- 『原点』とは、カーナビに入力する「最終目的地」です。
- 『底力』とは、その目的地まで走り切るための、あなたの「車の性能や装備」です。
この2つが明確であれば、あなたの思考は、無数の選択肢の中から、あなたにとっての最適なルート、つまり未来への『設計図』を、着実に描き出し始めます。
「転職か、残留か」といった大きな決断も、目先の不安や感情に流されて判断するのではなく、自分自身の法則に基づいて判断する「自律的」¹な意思決定へと変わります。
自分の『設計図』を持って生きる人生は、他人の価値観に振り回されるストレスから解放され、日々の仕事に新たな意味とやりがいを見出し、何歳からでも挑戦できるという希望に満ちています。キャリアのリノベーションとは、単に仕事を変えることではなく、人生そのものの質を高める、最も価値ある自己投資なのです。
¹ 脚注:「自律的」とは「他からの支配・制約を受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動するさま」を指します(広辞苑より)。当研究所が目指すのは、その行動の根拠となる「自分自身の規範(=原点)」を持つ、深い意味での「自律的」なキャリア形成です。
まとめ:さあ、あなたのキャリアをリノベーションしよう
この記事でお伝えしてきた「3つのステップ」は、以下の真実へと繋がっています。
- あなたのキャリアは、何歳からでもリノベーションできます。
- そのリノベーションのプロセスは、あなたが思うより難しくはありません。
- そして、リノベーションされたキャリアは、あなたの人生を間違いなく豊かにします。
ここまでお読みになり、「なるほど、理屈はわかった。自分でもできそうだ」と感じられたかもしれません。その意欲は、リノベーションの始まりとして、とても素晴らしいものです。
しかし、不思議なことに、頭では理解できても、一人ではなかなか深く実践できないのが「内省」です。私たちは誰しも、自分自身のことを客観的に見るのが最も難しいからです。自分では当たり前だと思っていることの中にこそ価値の源泉があったり、逆に、無意識の思い込みが自分の可能性に蓋をしていたりします。
経験と技術を持った専門家は、安全な対話の場を作り、的確な問いを投げかけることで、あなた一人ではたどり着けない、より深い自己理解へと導く「伴走者」です。自己流で時間をかけるよりも、品質高く、そして効果的に、あなたのキャリアのリノベーションを実現するためのお手伝いをします。
50代からのキャリアのリノベーションは、何かを新しく付け加えることではありません。あなたの中に既に眠っている膨大な価値を、再発見し、磨き上げる旅なのです。
もし、この記事を読んで、ご自身の「価値の再発見の旅」を始めてみたいと少しでも感じていただけたなら、その気持ちは、変化の始まりのサインです。どうぞ、ご自身のタイミングで、遠慮なくその想いをお聞かせください。
当研究所では、この旅の始まりである「『原点』発見プログラム」をご用意しています。
あなたの現在地と、心の奥にある想いを、私が聴かせていただくことを、心より楽しみにしております。
湘南キャリアデザイン研究所 代表 扇 慎哉